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「ロキシー……何故こんな事に」
エルンストは、物言わぬ友の身体にすがり唇を噛みしめる。
「私は激しく後悔しています。何故あの時、彼を倒さなかったのかと」
細雪の町にある研究院に到着した時、彼らは初めて敵の幹部に遭遇した。
彼はキーファーと名乗り、ロキシーを封印の鍵とともに石に変えたと冷ややかに告げた。
「彼は我々を裏切ったのでね。……制裁ですよ」
ジュリアスと同じ顔、同じ声で、その事に唯々驚くアンジェリーク達の反応を楽しむように話し続ける。
「せいぜい頑張る事ですね。楽しみにしていますよ、お嬢さん。……では失礼」
あっさりと引き下がるキーファーを、その場にいた誰も止める事が出来なかった。
『私の所為だ。あの時、足がすくんで動けなかった……宇宙を救うなんて偉そうに言ってるくせに、怖くて声すら出なかった……』
じっと俯いて悔しさを堪えるエルンストの様子を黙って見つめ、アンジェリークはロッドをぎゅっと握りしめる。
「怖かったのはあなただけじゃありませんよ、アンジェリーク。私もね、怖かったんです。……情けないですね、守護聖だというのに」
つられるように唇を噛みしめるアンジェリークの肩に、温かい手がそっと置かれる。
「ルヴァ様……」
アンジェリークはルヴァを見上げた。いつもと同じ穏やかな微笑みを浮かべ、彼もアンジェリークを見下ろす。
「でも、過ぎてしまった事を悔やんでもしかたがないんです。残念なことではありますが、今は前だけ見て進みましょう。これ以上、犠牲を増やさないためにも」
「……はい」
ややあって、アンジェリ-クもこくんとうなずいた。彼女が少し元気を取り戻した事で、ルヴァもほっとしたのだろう。ふっと笑顔を引っ込めて、今度は立ち尽くしたままのエルンストに向き直る。
「エルンスト。石に変えられた人間を元に戻したという伝説を、昔読んだ事があります」
「本当ですか?」
はっと顔を上げると、エルンストは慌てて後ろを振り返った。泣いているのかと誰もが思っていたが、そこは元聖地の研究院主任だ。俯きながら頭の中でいろいろと考えていたに違いない。
「ええ、古い記憶ですけどね」
意外にはきはきとした反応にルヴァの方が驚いて言い訳じみた答えを返すと、エルンストは顎に手を当ててしばし考え込んだ。
「……手がかりは少しでも多いほうがいい。書庫を捜してみましょう。ルヴァ様手伝っていただけますか?」
「ええ、もちろんですよ」
慌ただしく書庫に駆け込んでいくエルンストとルヴァを見送って、アンジェリークはほっと軽く息を吐いた。
「よかった。エルンストさん、元に戻ったみたい。……アリオス?」
アンジェリ-クは、今度は先程からひと言もしゃべらないアリオスにまた不安になって、彼の顔を覗き込んでみる。
何か考え込んでいるらしい難しい表情。
「アリオス、どうかしたの?」
右腕にアンジェリークの手の温もりを感じて、アリオスは我に返った。
「ん? あ、ああ。大丈夫、なんでもねえよ」
「でも、さっきからひと言も喋らないじゃない。具合でも悪いの?」
心配そうに首を傾げるアンジェリークに、アリオスは軽く微笑みかける。
「そんなやわじゃねえよ。大丈夫だって。ちょっと考え事してただけだ。どうしたらおまえのおっちょこちょいが直るかなぁって」
とたんに、アンジェリークはプッとふくれる。
「ほら、すぐそうやって顔に出る。ホント、見てて飽きないよなぁ」
「心配してるのに……もう、知らないっ!!」
膨れっ面のまま、ぱたぱたとアンジェリークは書庫の方に走っていった。
残されたアリオスはしばらく笑っていたが、ふと表情を硬くする。
『あいつ……キーファーとか言う野郎。俺の顔を見てひどく驚いてた。意味ありげに笑いやがって……気に入らねえ』
「……入れ」
「ただいま戻りました、レヴィアス様」
「キーファーか。その様子だと首尾よくいったようだな」
「御意。二度と我らに逆らえぬよう処理しました。……ご安心を」
キーファー、と呼ばれた青年がゆっくりと顔を上げる。光の守護聖を模したその顔には、残忍な笑みを浮かべている。彼は自分の主の顔を確認するように見上げると、もう一度楽しそうに笑っって先を続ける。
「それからもうひとつご報告したい事がございます。例の少女と守護聖の一行ですが……」
レヴィアスと呼ばれた長身の人物は、制するように片手をあげた。
「急くな。まだジョバンニが復活しておらぬ。……後でまとめて始末をつける」
「いいえ、その事ではございません」
キーファーは、楽しくてたまらないと言う表情を浮かべ、一歩前に進み出た。
「彼らの中に興味深い人物を見つけました。その事で、ぜひレヴィアス様にご報告を……」