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アリオスには過去の記憶がなかった。気がつくと旅から旅をして、星々を渡り歩いていた。
いつ習ったのかわからないが剣の腕は相当なものだったし、用心棒として雇われた事もあった。
記憶がない事を不思議に思っていたが、別に寂しくはなかった。
『どうせ、ろくな過去じゃねえさ。だったらいっそないほうがいい。俺は俺でしかないんだし』
旅の途中、とある惑星で新しい王様が即位するとの噂を聞いた。ちょうど資金が底を尽きかけた時である。
『政権が変わるって事は、厄介事が増えるってことだ。……仕事の口があるかもな』
金持ちのボディーガードはいい収入になる。アリオスはその星に行ってみることにした。
「……当てが外れたみたいだな」
街に一歩足を踏み入れ、辺りをぐるっと見回してアリオスはため息をつく。
即位式を間近に控え、その星=白亜宮の惑星は活気にあふれていた。
人々の顔には微笑みと新しい時代への期待に満ちており、不安など微塵も感じられない。
『余程いい国王だったのだろう。そして次の国王もか。こりゃあ、とんだ見当違いだったみたいだな。……仕方がない。せっかくだから見物でもしていくか』
アリオスは酒場へ向かった。
うまい地酒でもあればいいんだがなと僅かに期待しながら。
「だ、誰か! あの中にまだ女の子が!!!」
少し進むと鼻につくきな臭い匂いと、女の叫び声が聞こえてきた。ふと空を見上げると、前方に黒い煙が立ち上っているではないか。アリオスが煙に向かって走り出すと、宿屋の前でそこの女将らしき女が半狂乱で叫んでいる。
隣人に取り押さえられている彼女の目の前で、炎は容赦なく建物を舐め尽くそうとしていた。
「まだ、人がいるのか!?」
集まりつつあるやじ馬を掻き分け、アリオスは女将の腕を掴んだ。
「そ、そうなんだよっ!! 家の息子を連れてきてくれた親切なお嬢さんが……。ああっ……でももう…………」
女将はアリオスに呆然と答えると、自分の顔を覆って啜り泣き始めた。諦めるのも無理はない。それ程、火の勢いは強かった。
「おい、そこの男っ!! 水を持ってきてくれ。早く!!」
アリオスは、側で立ち尽くす男に大声で指示する。
「無理だよ、アンタ。消せやしないって!」
「いいから早くしろ!! 消すんじゃねぇ、俺がかぶるんだよっ!」
気迫に圧倒された男は慌てて駆け出した。そしてすぐに水で満たされた瓶を持って戻ってくる。アリオスは頭から水を被ると、周りの制止を振りきり、熱さで拉げた扉を蹴り破ったかと思うと、炎に包まれた館の中へと入って行ってしまった。