? Guys and Dolls

陰陽夢

(3)

アリオスには過去の記憶がなかった。気がつくと旅から旅をして、星々を渡り歩いていた。

いつ習ったのかわからないが剣の腕は相当なものだったし、用心棒として雇われた事もあった。

記憶がない事を不思議に思っていたが、別に寂しくはなかった。

『どうせ、ろくな過去じゃねえさ。だったらいっそないほうがいい。俺は俺でしかないんだし』

旅の途中、とある惑星で新しい王様が即位するとの噂を聞いた。ちょうど資金が底を尽きかけた時である。

『政権が変わるって事は、厄介事が増えるってことだ。……仕事の口があるかもな』

金持ちのボディーガードはいい収入になる。アリオスはその星に行ってみることにした。

 

「……当てが外れたみたいだな」

街に一歩足を踏み入れ、辺りをぐるっと見回してアリオスはため息をつく。

即位式を間近に控え、その星=白亜宮の惑星は活気にあふれていた。

人々の顔には微笑みと新しい時代への期待に満ちており、不安など微塵も感じられない。

『余程いい国王だったのだろう。そして次の国王もか。こりゃあ、とんだ見当違いだったみたいだな。……仕方がない。せっかくだから見物でもしていくか』

アリオスは酒場へ向かった。

うまい地酒でもあればいいんだがなと僅かに期待しながら。

 

「だ、誰か! あの中にまだ女の子が!!!」

少し進むと鼻につくきな臭い匂いと、女の叫び声が聞こえてきた。ふと空を見上げると、前方に黒い煙が立ち上っているではないか。アリオスが煙に向かって走り出すと、宿屋の前でそこの女将らしき女が半狂乱で叫んでいる。

隣人に取り押さえられている彼女の目の前で、炎は容赦なく建物を舐め尽くそうとしていた。

「まだ、人がいるのか!?」

集まりつつあるやじ馬を掻き分け、アリオスは女将の腕を掴んだ。

「そ、そうなんだよっ!! 家の息子を連れてきてくれた親切なお嬢さんが……。ああっ……でももう…………」

女将はアリオスに呆然と答えると、自分の顔を覆って啜り泣き始めた。諦めるのも無理はない。それ程、火の勢いは強かった。

「おい、そこの男っ!! 水を持ってきてくれ。早く!!」

アリオスは、側で立ち尽くす男に大声で指示する。

「無理だよ、アンタ。消せやしないって!」

「いいから早くしろ!! 消すんじゃねぇ、俺がかぶるんだよっ!」

気迫に圧倒された男は慌てて駆け出した。そしてすぐに水で満たされた瓶を持って戻ってくる。アリオスは頭から水を被ると、周りの制止を振りきり、熱さで拉げた扉を蹴り破ったかと思うと、炎に包まれた館の中へと入って行ってしまった。