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『……ね…が、い……ス…』
はっとして、目が覚める。
またあの夢だ。
俺は頭を一振りすると、薄闇の中で立ち上がった。
「…うーん…。どおしたの、アリオスぅ?」
隣のベットで眠っていたメルが声をかけてきた。
しきりに目を擦りながら、起き上がろうとしている。
「起こしちまったか?悪い。なに、ちょっと夢見が悪くてな」
焦点の合わないまま、こちらを見ているメルの頭をポンと軽く叩く。
「……どこ行くのぉ?」
「少し頭を冷やしてくる。もう少し寝てろよ」
俺は扉をそっと閉めた。
――あの夢を見るようになったのは、いったいいつからだったか。
暗闇の中で少女が一人佇んでいる。
声をかけようとするが、いつも声が出ない。
気配に気付いたのか、少女が振り返る。
栗色の長い髪、大きく見開かれた瞳。
何処かで逢った事があるのだろうか。……ひどく懐かしい。
やがてその表情は哀しみに捕らわれ、その瞳に大粒の涙が浮かぶ。
『……何がそんなに哀しいんだ?』
俺の声は届かない。
すると彼女の声が、途切れがちに直接頭に響いてくる。
『も…めて、お…ね…い。レ…ス……』
いつもここで目が覚める。
彼女が誰なのか。何が言いたいのか。俺には解らないまま、いつも……。
「そういえば……」
宿屋の小さなテラスで、夜風に吹かれながら俺は思う。
夢の中の少女。
彼女に逢った事があると錯覚した理由。
「似てるな、なんとなく。……あいつに」
「アリオス、はいこれ」
アンジェリークは小走りにアリオスに近づき、大事そうに両手に握りしめていたそれを押し付けるように手渡した。
「…オカリナ?」
アリオスが怪訝そうに受け取り手の中で玩んでいると、少女は嬉しそうににっこりと笑う。
「そ。好きなんでしょ?」
「俺が? なんで?」
受け取った青年の意外そうな答えを聞くと、アンジェリークは途端に笑顔を引っ込め少し不満そうに口を尖らせる。
「だって、昨日熱心に見てたじゃない。こんなもんでもちゃんと音が出るんだなぁって」
上目遣いに軽く睨むその仕草がおかしくて、アリオスはついプッと吹き出した。
「もー、なんで笑うのぉ?」
「だ、だってよ……。おまえさ、その顔鏡に映してみな? 絶対笑えるから…クッ…」
「もうっ! せっかく買ってきてあげたのにー。貴重なハート使ったのよ!?」
拳を軽く上げ、殴るようにしながらアンジェリークは抗議を続ける。
「わ、わかった。ハハッ…俺が悪かったよ。…サンキュ。ありがたく受け取るから、な?」
「…最初から素直にそう言えばいいのに、もうっ!」
意外と素直にアリオスが謝った為に少し拍子抜けして、いつになくはしゃいでいる自分に気付いたのだろう。
アンジェリークはほんのりと頬を朱に染め、誤魔化すようにコホンと軽く咳払いをした。
アリオスは、アンジェリークがこんな風に話す相手は自分だけだと、最近になって気が付いた。彼女の旅の仲間達は一風変わっていて、何処か浮世離れしている。
いささか目立ち過ぎるきらいはあるにしても、なかなか面白い連中だとアリオスは思っている。しかし、アリオスにとってはただの仲間でも、アンジェリークにとっては違う。
『……なんといっても守護聖様だからなぁ』
そう最初に教えられた時、はっきり言ってピンとこなかった。
いや、守護聖と言う存在は聞いたことがある。その担う役割も。
女王の統べるこの宇宙。その総ての根源である9つの力。その力の象徴である存在が、守護聖である彼らだった。
そんな神にも等しい存在が、目の前の派手ないで立ちの彼らと、どうしても一致しなかったのだ。
『ま、こんな抜けた奴が別宇宙の女王様だってんだから、それもありか』
自分の隣で一生懸命オカリナを吹いている少女を見て、アリオスは唇を微かに歪めた。