孟徳への報告を終えた文若は、その足で花の部屋に向かった。そして彼女に改めて「近々に休みを申請する。そうしたら婚儀をあげよう」と伝えてから、嬉しげにうなずいた花に目を細めた。
「それと少し早めではあるのだが、その……明日にでも、私の邸に来ないか?」
意を決して言った文若の言葉に、花は一瞬目を見開いたもののあっさりとうなずいたので、言った文若のほうが驚いて目を見張った。
「よ、よいのか?」
「はい、もちろんですよ。それに文若さんのお屋敷に遊びに行くのは、初めてじゃないですし……」
さらりと言う花の様子に、文若は納得したようにため息をついた。そして改めて花を見おろすと、彼女の頬にそっと手を添えた。
「そうではない。そうではなくて……ここを引き払い、私の邸にこいと言っておるのだ。二人で共に住もうと……言っている」
「……え?」
まじまじと文若を見上げていた花だったが、彼の照れくさそうな仏頂面から漏れた言葉の意味を理解した途端、実にわかりやすく顔を朱に染めて目を泳がせた。
「え? え? ええっ!? あ、あのっ、い、一緒にって……わ、私と文若さんが!?」
「他に誰がいるのだ。確かに婚儀までいくらか日はあるのだが……その、邸や今後の暮らしぶりに徐々に慣れていくならば、時間はいくらあってもいい。だから、少々そういったことを早めてもかまわんと思って、だな…っ……」
もっともらしく理由をつけてはいるが、文若自身も照れくさいのだろう。
声音こそ優しく穏やかだが、その眉間にはいつにも増してしわが寄り、花から視線を逸らしている。その様子がやけに子供じみて見えて急に余裕が出た花は、くすりと笑ってから自分の頬に添えられた文若の手にそっと触れた。
「ふふっ、それって結婚の予行練習ってことですよね?」
「ま、まぁ……そういうことに、なる」
鷹揚にうなずく文若に笑いかけた花は改めて文若の手を両手で握りしめると、ゆっくり視線を落としてうなずいた。
「わかりました……これから、よろしくお願いします」
「あ……ああ。こちらこそ、よろしく頼む」
お互いに頭を下げ合い同時に顔を上げると、絡んだ視線にどちらともなく笑顔を浮かべながら軽く唇をあわせた。