自室の窓からぼんやりと空の月を見上げていた花は、やがてため息をつくと窓の桟に肘を乗せて頬杖をついた。
「……見なきゃよかった」
そうつぶやいて目を閉じた花は、再び深いため息を吐いた。
「……会いたいな。会いたいよ、文若さん……」
そう声にしてみるとなおさら想いがこみ上げてきて、鼻の奥がつんと痛くなってきた。昼間あれだけ泣いたというのに、まだ涙が残っているのかと思うと我ながらおかしくて、花は目元を擦りながら口元を歪めた。
「もぉ…やだぁ。私、いつからこんな泣き虫になったんだろ…。全部、文若さんの所為なんだからっ……」
「……なんでも私の所為にするな」
聞き慣れた不機嫌そうな声がすぐ側で聞こえ、花はびくりと身体を震わせて顔を上げた。そしてすぐ目の前に立って心持ち息を乱している文若をじっと見上げて、大きく目を見開いた。
「ぶ……じゃく、さ…」
すると文若は逆に目を細め、手をそっと花の頬に伸ばすと苦笑いを浮かべた。
「…ひどい顔だな」
むっと唇を尖らせた花は、ぐいっと手の甲で涙を拭うと文若を恨めしげに見上げた。
「誰の所為だと思ってるんですか?」
「……そうだな」
ふっと笑いながら親指の腹で目元に残る涙を優しく拭ってやると、花は安心したように口元を緩めた。
「もしかして、走ってきたんですか?」
珍しく肩で息をし、額に汗を浮かべている文若の様子に花が軽く首を傾げると、文若はまた微かに微笑んだ。
「ああ。手遅れにならぬうちに、お前に会わなければと思った。私はもう二度と……後悔したくなかったから」
「文若さ…!?」
頬に触れていた文若の手が動いたと思った途端、花は彼の腕の中にすっぽり収まってしまっていた。抱きすくめられたことに驚いて言葉を失っている花の髪を、文若は丁寧に指で梳いた。
「……すまなかった。私は己の心の弱さに負け、また過ちを犯してしまうところだった」
きゅっと服を握りしめる花の頭を抱き寄せて、文若はそっと目を閉じた。
「本当に私は愚かだ。皇太子陛下をお助け出来ずに後悔した時も、丞相の真意を読もうとせず勝手に絶望した時も、いつもお前は私を支え励ましてくれたというのに……今度は、そのお前を手放そうとするなど…」
抱きしめる手に力を込め、文若は花の髪に唇を寄せてささやいた。
「出来るはずがないというのに……お前なしで、私は生きていけるはずがない」
「……私も、文若さんと一緒にいたい……文若さんじゃなきゃいやです」