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いつか花が咲くから

(3)

「新入隊士は女」

そう聞いた時、永倉新八は眉をひそめた。

「剣術で身を立てようなんぞと考えるたぁ、いってェどんな女なんだ?」

「嫁にも行かずになぁ。もしかして、入道みてぇな大女だったりしてな。あははっ!」

「笑い事かよ、左之。んなの手下に入れられた日にゃ、巡回で目立ってしょうがねェ」

それでなくとも、徒党を組んで肩を怒らせて歩いている壬生浪士組は、京の町で有名になりつつあった。

本音と建前を使い分ける京の都の人々は、表向きこそ「乱暴な浪人どもを取り締まって下さる浪士組の皆様」と笑みを浮かべてみせるが、腹の底では「しょせんは同じ穴のムジナ。薄汚い東国浪人の集団」だと思っている。

そういった京の人々の態度が、江戸育ちで良くも悪くも裏表のない永倉らには、どうにも鼻について仕方がないのだが、だからといって町人達といざこざを起こすほど無分別でもない。

これから先のことを考えれば、なるべくならば目立たぬように、京の人々を敵に廻さないよう行動するのがいい。

そう思い始めた矢先に、女隊士が入隊するという。どう考えてもよく転ぶとは思えない事態に、二つ返事で引き受けた近藤以外の幹部らが渋い表情を浮かべるのも、まず当然と言える。

「いくら会津公直々のお達したぁいえ、近藤さんもよく引き受けたもんだぜ」

苦々しげな表情を浮かべて腕を組む永倉の隣で、同僚の原田左之助も頭を掻きながら眉をひそめた。

「近藤さんは頼まれ事に弱えぇからなぁ。しかも相手が会津公ときちゃ、断るなんぞできなかったんだろうさ」

「見えっぱりなとこが、どうにもあの人の欠点だよ」

軽く肩をすくめてため息をこぼす永倉と並んで歩いていた原田が、不意に立ち止まった。それに気がつかずに永倉は、数歩歩んだところで目を開けると足を止め、原田の方を振り返る。

「どうした、左之? 腹でも下したか?」

「ちげーよ。……な、新八。聞えねーか?」

「なにが?」

永倉が問いかけると、原田は口元に人差し指を当ててから目を閉じ、じっと耳を澄ました。やがてゆっくりと目を開けると「間違いねー」と小さく呟き走り出した。

「おい、左之!」

自分の脇を走り抜ける原田の背中に向ってひと言浴びせると、彼の返事を待たずに永倉も走り出した。

「待てよ! なんだってんだ、いってェ!?」

「わかんねぇけど、なんか泣き声みてぇなのが聞こえんだよ! 道場の方だな、こりゃ!」

「泣き声? 迷い込んだ野良猫が盛ってるだけじゃねェか?」

「かもしれねぇが……っと!」

永倉よりも先に離れの縁側に辿り着いた原田は、道場の中をちらりとのぞき込み、身体をこわばらせた。

「どうした、なんかやべェのでもいたか!?」

永倉が声を掛けて立ち止まると原田はくるりと振り返り、頭を掻きながら困ったように眉をひそめた。

「うん、まぁ……やべぇといやぁ、やべぇかも…しれねぇ」

「んだ、そりゃ?」

永倉は怪訝そうに眉をひそめると、すばやく下駄を脱いで縁側に飛び乗った。そして道場の前に進むと、中を覗き込んで「うっ!」と声をつまらせた。

「……な、やべぇだろ?」