しばらく、ジェイドは黙ったままうつむいていた。どれほど罵られようと仕方がないと、覚悟もしていた。しかしベルナールもまた口をつぐみ、マグカップを手にしたまま、ジェイドのうなだれた頭を見ていた。
やがてジェイドは小さく息を吐き出し、意を決したように顔を上げた。彼ならばたぶん、真実を話しても大丈夫だろうと思ったのだ。信じてくれるかどうかはわからないが、少なくとも、むやみに流布して歩いたり、自分や仲間達に対して不利益になるようなことはしないだろう。そう信じられるだけの関係を、今まで築いてこれたと思っている。
「……わかった。ベルナール、正直に話すよ」
ぽつりと言ってからジェイドは表情を引き締め、同じように真面目な顔をして軽くうなずくベルナールを正面からひたと見据えた。
「俺はアンジェリークのこと、とても大事に思ってる。彼女と共に過ごす時間は、何物にも代え難い喜びと幸福を俺に与えてくれるんだ。だから俺はこれからも、彼女と共にありたいと願っている。アンジェの幸せを、守りたいって思っているよ」
「……」
「でも、だからこそ俺じゃ駄目なんだ。彼女には同じ時間を、同じ速度で一緒に歩いていける、そんな人がふさわしいから」
「……君は、そうできないのか?」
「うん。俺は……」
「人間ではなく、アーティファクトという偽物だから」と続けようとジェイドが口を開きかけた時、応接の外が急にがやがやと騒がしくなった。
ベルナールは、ジェイドの発言を手で制して立ち上がり、部屋の入り口に歩み寄ってドアを開けて外の様子をうかがった。
するとジェイドの方にまで「あ、見つけた!」という短い叫びが聞こえ、その声の持ち主に思い当たったジェイドが腰を浮かしたところへ、アンジェリークがベルナールに詰め寄るかたちで姿を現した。
「ベルナール兄さん、ジェイドさんはどこですか?」
「アンジェ……どうして?」
ベルナールが答えて指差す前に、ジェイドの声に反応したアンジェリークがぴくりと肩を震わせた。そして室内に目を転じ、ジェイドの姿を確認してからほっと息を吐いた。
「ジェイドさん、よかった」
言いながらジェイドの側に歩み寄るアンジェリークの背中を見ながら、ベルナールは腰に手を当てて苦笑を浮かべた。
「そんなに血相変えて駆け込んでこなくても、彼は無事だよ。まったく、そんなに大騒ぎしてまるで僕が悪者みたいじゃないか」
「ベルナール兄さんが悪いんですっ!」
目を閉じて眉を眉間に寄せ、アンジェリークはぷうっと頬を膨らませた。するとベルナールは笑いながら「そんな顔をしたら美人が台無しだよ」とからかい口調で返し、改めて長椅子に座り直した。
「まぁでも君の方から来てくれて、これはこれで好都合かもしれないね」
アンジェリークはくるりと振り返り、怖い表情を浮かべたまま「もうっ!」と叫んだ。
「私、兄さんの冗談に付き合っている時間はないんですってば。ジェイドさん、ごめんなさい。おかしなことに付き合わせてしまって……」
「おかしなことって……誤解だよ、アンジェリーク」
言って身を乗り出したベルナールに向かって、「だって……!」と反論しようと一歩前に踏み出したアンジェリークの動きを止めたのは、なんとジェイドだった。
彼は、立っているアンジェリークの前にすっと腕を出して踏みとどまらせ、思わず振り返った少女に軽く微笑んでみせた。
「おかしなことじゃない。君を大事に思っている人なら、当然心配することだよ。だから、俺も正直に答えなきゃいけないんだ」
「ジェイドさん……」
ジェイドは改めて向き直り、ベルナールをしばし黙って見てから、ゆっくりと口を開いた。
「ベルナール、俺はアンジェを大切な人だと思ってる。でもだからこそ、いつか運命の相手を見つけて幸せになって欲しいよ」
「君は……彼女の運命の相手は自分ではない、と?」
ベルナールの言葉に、アンジェリークは瞳を伏せた。するとジェイドは申し訳なさそうに彼女をちらりと見てから、ゆっくりとうなずいた。
「うん、俺であるはずがない。だって……俺は……」
ジェイドがその先を続けようと息を呑んだ瞬間、まるでそれを見計らっていたかのようにベルナールが言葉を発した。
「古代のアーティファクトだから、かい?」