happiness

(3)

レインの言葉に、ベルナールは驚いたように目を見開いた。そしてレインに詰め寄り、早口でまくし立てた。

「なんだって! でもあの様子はどう見たって、お互いに想いを交わした恋人同士じゃないか!」

「そんなこと言われても、いつもあんな調子だからなぁ。いわゆる日常的な光景ってやつだよ」

背後からの声にぎょっとしたベルナールは、慌てて振り返った。するとそこにはヒュウガがいて、玄関口でのイチャイチャぶりなどまったく見えないかのように、平然と床に下ろしていた荷物を持ち直していた。

「とりあえず、一度部屋に戻る。落ち着いた頃に一服しに降りてくるとしよう」

「りょうーかい。あいつらにも言っておくよ」

「頼んだ」

レインも心得たもので、 ヒュウガの言葉に軽くうなずいてから、ひらひらと右手の指を振ってみせた。そんなやりとりがあまりにも自然なので、どうやらヒュウガの言うとおり、こんな光景は日常茶飯事なのだろう。

しかし、今日初めてアンジェリークとジェイドのやりとりを見てしまったベルナールは、恥ずかしながらかなりショックを受けていた。

別に彼女に対して特別思うところがあったとか、そういうわけではない(と、本人は思っている)。彼女だって年頃の女の子だ、好きな相手が出来たとしてもおかしいことなどない。

しかし『彼女の兄』を自負し、今のところもっとも彼女と近しい大人であり男性である、と信じていたベルナールは、自分のあずかり知らぬところでアンジェリークに好きな男が出来ていた、という事実に、思わずがっくりと肩を落とした。

「好きな相手が出来たら、あの子は真っ先に僕に相談してくれると思っていたのに……」

「……落ち込むとこそこかよ」

レインにつっこみを入れられたが、それに反論する元気もなくなったベルナールはもう一度ため息をつくと、ふらりときびすを返してよろよろと歩き始めた。

「おい、大丈夫か?」

その様子があまりに哀れだったので、レインが思わず声をかけた。しかしベルナールは「……大丈夫だよ」とぽつりつぶやいて、ふらふらと玄関の方へ向かった。そして彼の存在にようやく気がついたアンジェリークに精一杯の笑みを見せ「仕事を思い出したから、今日はもう帰るよ」と告げ、律儀にジェイドにもぎこちなく微笑んで、脱兎のごとく駈けだしてしまった。

すると、彼が向かう門の方から、ちょうど依頼から戻ってきたらしいニクスが姿を現した。彼は自分の方へ向かってくるベルナールに気がついて立ち止まり「おや? いらしていたのですか?」と笑顔で声をかけたのだが、ベルナールはそんなニクスには目を向けることもなく、そのままのスピードで駈けていってしまった。

しばらくニクスはその場に佇み、どんどん小さくなっていくベルナールの後ろ姿を見送っていたが、やがて肩をすくめるときびすを返し「文字通り、走り回っての取材ですか。新聞記者とは、まさに体力勝負なのですね」とつぶやきながら、陽だまり邸の玄関の取っ手に手をかけた。