サザキは指を引き抜くとまとわりついた千尋の蜜を舐めとり、身体を起こして千尋の顔を覗き込んだ。
「姫さん……千尋……」
呼ばれて千尋はうっすらと目を開けた。とろんとした表情で、まだ肩を大きく上下させている彼女にサザキは微笑みかけると、華奢な身体を包むように抱きしめた。
「大丈夫か?」
「……うん」
小さくうなずく千尋の髪を撫で、サザキは彼女の身体を改めて抱き上げた。そうして牀の上に胡座をかいて座ると、千尋を横抱きにして膝の上に座らせた。
「無理させないようにって思ってたんだが……無理させちまったな」
「……ううん、そんなことない」
「じゃあ……気持ちよかったか?」
サザキが問うと千尋はぱあっと顔を赤らめてうつむいたが、微かに首を動かすとサザキの胸にぎゅっと顔を押し付けた。
「そうか……ならよかった。偉そうなこと言っといて満足させられないくらい、男としてかっこ悪いこたぁねぇからな」
千尋の背をぎゅっと抱き寄せて、サザキは嬉しそうに笑った。
こんな時でも、いつものように朗らかに笑うサザキを千尋は一瞬恨めしそうに見上げたが、すぐに諦めたような微笑みを浮かべた。
だが、その後サザキがひょいっと千尋の身体を持ち上げるものだから、その笑顔は不思議そうな表情に変わってしまった。
「え……なに?」
するとサザキはサザキで、千尋を唖然とした表情で見つめると、困ったように眉尻を下げた。
「なにって……あの、続きがあんだけど……」
一瞬、本当に何を言われているのか理解できなかった千尋は、ぽかんとした表情のままサザキを見つめた。
するとサザキもしばらく千尋を見つめた後、彼女を敷布の上に降ろして座らせると、がっくりと肩を落として頭をたれた。
「っかーっ、勘弁してくれよ。あそこまでしといて、オレにはお預けくらわすつもりか、姫さん?」
「お預け、って…………ああっ!!」
ようやく合点が言った千尋が大声を上げるとサザキはゆらりと顔を上げ、恨めしげに彼女を見つめた。
「マジで忘れてたってか……そりゃあ、いくらなんでもあんまりじゃねぇか?」
「ご、ごめん……なさい」
謝るのもなんだかおかしな気がしたが、確かに『一番大事なこと』を致す前に満足してしまって、肝心なことを忘れてしまうというのは本末転倒すぎる。
だから千尋は素直に非を認めると、ふてくされるサザキを見ながら改めて頭を下げた。
「だって、その……は、初めてだったから、私、なにがなんだかわからなくなっちゃって……それで、その……」
どう言い訳したらいいのかわからず、しどろもどろになる千尋を目を細めて観察していたサザキだったが、やがて怖い顔をしてみせると無言で右手を上げ、人差し指を動かして千尋を手招いた。
そんなサザキに対した千尋は不安げに表情を曇らせたが、非は確かに自分にあるのでごくんとつばを飲み込むと、恐る恐るサザキの側にいざり寄って彼の顔を見上げた。
「な、なに……?」
微かに声を震わせる千尋に憮然とした表情を見せていたサザキは、千尋の脇の下から両腕を背に回してひょいっと持ち上げると、自分の膝の上にすとんと落とした。そして眉をひそめる千尋を一瞬睨んだが、すぐに微苦笑を浮かべてみせた。
「安心しな、もう怒ってねぇよ……ま、あんたを満足させすぎたオレも悪いってことだ。まったく、出来すぎる男ってのもこれで色々不便なもんだな」
「そ……そうだね」
妙な方向で納得してくれたようだが、これ以上なにか言って本気で機嫌を損ねるのも嫌なので、千尋は曖昧な相づちを打って誤摩化すことにした。
だが、それはどうやらあまりしないほうがいい同意だったようで、サザキはすぐにいたずらっぽく目を細めて笑うと千尋の腰に手を回し、怪訝そうに自分を見る千尋に、衝撃的な発言をぶつけた。
「それじゃあ、改めて仕切り直しだ。姫さん、も少しオレのほうに近づいて、そのまま腰を下ろしてみな」
「……え?」
またもサザキの言葉の意味がわからずに千尋は首を傾げたが、今度はすぐに何か思い当たったらしく、ちらっと視線を下に向けてから「きゃあっ!」と悲鳴を上げて後ろに飛び去ると、両手で顔を覆っていやいやと首を振った。
「やだっ! サザキのばかっ!! すけべっ、変態っ!!」
「な、なんだぁ!? あのなっ、これはちゃんとした男だって証拠だろ!? 大体姫さんがイイ声出すから……」
「やだもうっ! ばかばかばかばかばかぁっっ!!」
「ば、ばかって……そんなに連呼しなくても……」
さすがに傷ついた表情を浮かべるサザキに、千尋もはっとして口をつぐんだ。けれどどうにも視線を合わせるのが恥ずかしくて、千尋は斜め後ろに目を向けたまま「……ごめん」と小さく呟いた。
するとサザキは千尋をしばらく見た後に諦めたように肩をすくめてため息をつくと、所在なげに視線を逸らして頭を掻いた。
「……仕方ねぇな。あんたが嫌がることは絶対しないって誓ったばっかだし……ちょっと、出てってもらえるか?」
理由がわからず身を乗り出して口を開こうとした千尋を制すと、サザキは困ったようにまた頭を掻いた。
「どうしてとか聞くなよ。あんまみっともいい話じゃねぇんだから……な、察してくれ」
ここまで言われたら、さすがに千尋でもわかる。いくら経験がなくとも、千尋は21世紀で暮らしていたのだ。情報だけなら溢れるほどあった世界のおかげで、多少耳年増気味になっていると言ってもいい。
「あの……サザキ」
声をかけてはみたものの、さすがにサザキのほうも決まりが悪いらしく、そっぽを向いたまま顔を赤らめて千尋と視線を合わせようとはしない。
「あんたがいてくれたほうが早くすむと思うが、さすがにそれは……な」
言って改めて千尋に背を向けたサザキは、背中越しに彼女を追い払うように手を振った。
「……悪い。ちょっと場所借りるな?」
すると千尋は弾かれたように前に這って進むと、サザキの背後に飛びついて右腕にしがみついた。
「な……ち、千尋?」
「ごめん……ごめんなさいっ」
「別に謝ることじゃ……と、とにかくその、あれだ。あ、あんましがみつかないでくれ。オレもそうそう辛抱効くほうじゃねぇんだから」
二の腕に感じる膨らみの柔らかさにサザキは焦り、千尋を引き離そうと腕を持ち上げた。
すると千尋は何度も首を振って抵抗すると、サザキの前に回り込んで膝の上に身体を預けるようにして乗ると、夢中で彼の唇に吸い付いた。