薄衣の向こう

(15)

しばらく千尋の唇を凝視していたサザキだったが、ややすると顔を真っ赤に染めてまばたきを繰り返した。

そのまま顔を横に背け、真っ赤になった耳を千尋に見せながらようやく口を開いた。

「そっ、それはっ! それはだなっ!! だからっ! そ、そーいうことを、こ、このじ、じょうきょ、でっ聞くっ!き、っ、聞くもんじゃねえってのっ!!」

「じゃあ……どういう状況でなら訊いていいの?」

恥ずかしそうに顔を赤らめてはいるが、千尋はなおも食い下がった。どうやらサザキの決心が、おかしな方向で彼女に伝染してしまったらしい。

「そっ、そもそもっ! そういうことは訊くもんじゃねぇっ! 特にっ! 姫さんみたいな、お、女の子がだなっ……!!」

しどろもどろになって声を上ずらせるサザキを見つめていた千尋は、やがて恨めしそうに眉をひそめた。

そして彼の横髪をぐっと引っ張って無理やり顔を戻させると、顔を真っ赤にして叫んだ。

「女の子だっておなじだよっ! 好きな人ができたら男の人だって女の子だって、か、考えることは一緒なんだからっ!」

千尋の剣幕に驚いたサザキが思わず上体を起こそうとしたところ、千尋が全体重を預けてきた。

慌てて支えようと腕を伸ばすと、それを待っていたように千尋はサザキに抱きついて、彼の口に力いっぱい自分の唇を押し付けた。

「ちひ……っ!?」

そのまま後ろに押し倒されたサザキは目を白黒させ、しばらく千尋のなすがままにされてしまった。

だが、やがて苦しそうに眉をひそめると、慌てて千尋の体を引き剥がした。

「……ぷはーーーっっ!! ま、待ってくれ姫さんっ! そんな勢いじゃ、窒息しちまうって!」

それは千尋も同じだったらしく、サザキに肩を掴まれたまま荒い呼吸を繰り返すと、所在なげに目を伏せた。

「だ、だって……。私、ディープキスのやり方なんて……ちゃんと知らないもの」

「で、でいぷきすぅ……?」

サザキが眉をひそめて聞き返すと、千尋はますます顔を赤らめて押し黙った。

しかしそんな千尋の態度から、サザキは彼女がなにをしたかったのかに気がついたのだろう。「……はっはーん。そういうこと、か」と小さく呟いて片頬に笑みを浮かべると、千尋の赤く膨れた頬を指で突いた。

「あのなぁ、姫さん。好奇心があるのはいいが、闇雲に突っ走るのはいただけないなぁ」

「でも……だって……っ」

上目遣いに睨んでくる千尋に笑いかけたサザキは、先ほどの千尋の熱烈なそれとは違う、柔らかな接吻をそっとしてやった。

そして目をしばたたせる千尋の様子にまた笑うと、唇を放してささやいた。

「ホント、危なっかしいったらないぜ。このままほっといたら、なにしでかすかわからねぇな。だから……オレが教えてやるよ」

「サザキ……」

「あんたの知りたいこと、知りたがってることを今から……全部、オレが教えてやる……」

言ってそのまま千尋を牀の上に横たえると、不安げに瞳を揺らす顔を見つめて照れ臭そうに微笑んだ。

「さっきの質問……これじゃ、答えにならないか?」

サザキの言葉に千尋は微かに目を見張り、やがてほんのり頬を染めて幸せそうに微笑んだ。

「……うん。私の薄衣、サザキが剥がして……」