言って腕に力を込めるサザキの、いつもとはまるで違う積極性な態度に、千尋は混乱と眩暈でいまにも気を失いそうになっていた。
だがおかげで、次に会うときにはどんな顔して会えばいいのかと思い悩んでいたのは、きれいさっぱり吹っ飛んでしまったが。
その時、ふわりとサザキの身体から漂ってきた香りが、千尋に少しだけ冷静さを取り戻させた。
彼女は確かめるように息を吸い込むと、確信をもってサザキの背を何度か叩いて抗議をした。
「やだっ! サザキってばお酒臭いよ。もうっ、酔ってるでしょ!?」
「あ? 酔ってなんかいねぇよ」
「じゃあ質問を変える……お酒、飲んで来た?」
「酒? ああ、そういや……ちょっとだけ、な」
彼ののんきな答えに、千尋は抱きしめられたまま小さくため息をついた。それと共に、常ならぬサザキの言動に納得がいって妙な安堵を覚えた。
一見ちゃらんぽらんでいい加減に見えるサザキだが、実のところ中身は誰よりも生真面目で純情なのだ。
こんな夜遅くに人目を忍び千尋の部屋を尋ねてくるなど、素面の状態であれば出来るはずもない。だが、これが酒の力を借りての行動であれば腑に落ちる。
別れた後になにがあったかは知らないが、おおかた日向の若衆恒例の宴会で飲み過ぎて、勢い込んでやってきたという辺りだろうと目星を付けた千尋は、もう一度ため息をつくとサザキの背をぽんぽんと軽く叩いた。
「あのね、サザキ。もう夜も遅いし、話なら明日聞くから……ね?」
「……ん?」
ゆらりと顔を上げ千尋を見つめると、彼女は優しく微笑んでサザキを見上げていた。
だが彼女の口をついて出た言葉は、サザキが想像していたのとは別の意味を持っていた。
「今日は帰った方がいいと思う。その……こういうの、いけないと思うんだ」
「……なにがいけないんだ?」
ぴくりとサザキは片眉を上げると、千尋の瞳をじっと睨みつけた。
そして驚いて身体を強ばらせる彼女の肩をぽんっと軽く押して牀の上に倒すと、起き上がれないように上から両手首を押さえつけた。
「サザ、キ?」
「なにがいけない? オレはあんたに会いたくてここに来た。それのどこがまずいっていうんだ?」
「そ、それは……」
「帰らねぇよ……今日こそお宝を手に入れるって、決めて来たんだからな」
「おたから、って……」
震える声で問うと、サザキは千尋の耳に唇を寄せてささやくように、だがはっきりと言い切った。
「あんただ、千尋。オレは今夜、あんたを抱く……そう決めて来た」
サザキの言葉に次いで、千尋がひくっと息を飲む音が響いた。と、次の瞬間、千尋は拳をぎゅっと握りしめると、かろうじて動く足をめちゃくちゃに振り回してサザキを攻撃し始めた。
「痛てぇっ!! こらっ、おとなしく……うおっ!」
ある程度の抵抗は覚悟していたが、ここまで激しく攻撃されるとは思っていなかったサザキは、千尋の捨て身の攻撃に一瞬ひるんだ。
すると千尋はそれを見逃さずに右足をぐっと曲げると、力任せにサザキの腹を蹴り飛ばした。
「うごっ! …………ううっっっ」
呻いて牀の敷布に突っ伏すサザキを肩で息をしながら千尋は睨みつけ、ゆっくりと身体を起こすと丸まった彼の身体に飛びついて拳で殴り始めた。
「ばかっ! サザキのばかっ!! ばかばかばかっ……ふ、ふえっ……」
さんざん叫んでしゃくりあげながら、千尋はようやく殴るのを止めた。そうしてサザキの丸くなった背中に額を押し付け、ぼろぼろと涙をこぼした。
「なん、でよ。なん、で、こんなこと、するの……」
「……げほっ。なんでって……そりゃあ、オレはあんたのことが……」
かすれた声でサザキがどうにか答えると、千尋はしゃくり上げながら顔を上げ、彼の背中をまた一つ叩いた。
「ばかぁっ! だっ、たらっ……お、お酒なんかでっ、こ、こないでよぅっ! お酒飲んでっ、そのっ、いきおいなん、かで……こないでっ!」
ゆっくりと上体を起こしたサザキは、申し訳なさそうに眉をひそめて千尋を振り返った。
すると彼女は涙の溢れた目でサザキを睨み、そしてすぐに顔をくしゃくしゃにして彼に抱きついた。