「ちゃんとご鈑食べないで、身体持つのかなぁ…」
望美が心配そうに眉をひそめる横で、将臣は手にした握り飯を頬張りながら、軽く肩をすくめた。
「大丈夫だろ。本人がいいっていうんだから」
「でも、昨日も面倒だとかなんだとか言って、夜にちょっと食べただけだよ?」
「ああいうヤツは、2?3日食わなくたって死にゃあしない」
「でも…」
「いくら怠け者でも、自己管理くらいは出来るさ。腐ってもイチオウ武人だしな」と言いながら、重箱の中の沢庵をひょいっと摘んでくわえた。
「しっかし、相変わらず譲の弁当は手が込んでるなー。こりゃこっちの世界で店でも出したら、結構流行るぜ」
そう感心しながらダシ巻き卵を口に放り込む、知盛とは対照的な将臣の食べっぷりに、望美は目を細めて小さく笑った。
「将臣くんは全然変わってないね」
「ん?」
「昔から、ご飯をすごーく美味しそうに食べるじゃない」
「そうか?」
「うん。だから将臣くんと外食すると、ついつられて沢山食べ過ぎちゃうんだよね。お腹でも壊せば懲りるのに、そういうとこ丈夫なんだもん、私の胃袋」
体重計の目盛りでも思い出したのか、望美が小さなため息をつくと、将臣は怪訝そうに首を傾げた。
「でもお前、食い過ぎても太らない性質なんだからいいだろ?」
「……太るよ。しっかりばっちり」
「そうか? 胸とか小っさいままだから平気なんだと思ってたぜ」
「欲しいとこにはつかなくて、いらないとこにはつくの……って、小さいってなにっっ!!」
望美が眉をひそめて立ち上がると、将臣は慌てて重箱を片手で押さえた。
「おい、急に立ち上がるなよ。弁当零れるだろ」
「将臣くんが失礼なこと言うからでしょっ! もーっ、それってセクハラ発言だよっ!!」
膨れっ面をした望美は拳を握りしめ、将臣の頭を叩こうとして腕を振り上げた。と、彼女の両袖から笹で包んだなにかがこぼれ出た。それは重箱に当たってはねると草の上に落ち、笹のすき間からこぼれた白い塊が二つ、将臣の目の前をころころと転がった。
「……んだ、これ?」
転がった小さな塊を将臣がひょいっと手に取り目の前にかざした途端、しかめ面を浮かべていた望美の表情がさっと変わった。
「え……あ、ダメッ! それはダメーッ!!」
「な、なんだよ?」
重箱の隣に転がった塊の一つを慌てて回収した望美は、将臣の手の中にあるもう一つを取り上げようと必死で手を伸ばした。
「返して返してっ! やだっ、将臣くん見ちゃダメーッ!!」
「見るなって言われると、よけい見たくなるだろ」
顔を真っ赤にして手を振り回している望美から器用に腕をすり抜けさせると、将臣は白い塊に改めて目をやった。
「……これ、握り飯か?」
「…………その、つもり」
唖然としてつぶやいた将臣の言葉に、望美はぼそりと返事をするとその場にぺたりとしゃがみこみ、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「将臣くんたちと出かけるって、何となくみんなに言いづらくて…それで、こっそりお弁当作ろうかなって思って……おにぎりくらいなら、出来るかなって。そしたら……そうなりました」
ふつう『おにぎり』というのは、読んで字のごとく手で握った米の塊のはずだ。
ところが将臣が手にしているそれは、握ったというよりも「米をまとめた」とでも言えばいいのか、どうやったらこんないびつな形に仕上げられるのかと、逆に追及したくなる代物だった。
「そしたら途中で譲くんが起きてきちゃって……慌てて包んで袖にいれて誤魔化したんだけど、結局ばれちゃったの。そしたら譲くん、『お弁当ぐらい作ってあげますよ』って……おにぎりは私と将臣くんの分だって思ってくれたのが、不幸中の幸いっていうか……」
「それで譲の弁当だけ出したのか」
「……うん。それは、後でこっそり食べようと思ってた。譲くんのお弁当と一緒に出せるほど、私、勇気ないもん」
しょんぼりと頭をたれる望美のつむじをしばらく眺め、やがて将臣は微かな笑みを浮かべた。
「そういやお前、中学の家庭科でもすっげぇの作ってたよな? 化学反応起こしたシチューだったか?」
「……グリーンカレーだよ」
望美の消え入りそうな声に、将臣は楽しそうに笑った。そして改めて『おにぎりらしきもの』をまじまじと見つめる。
「しっかし、握り飯をよくこれだけ個性的な形にできるな。逆に感心しちまうっつうか」
「それ、ぜんぜん褒めてません」
拗ねた声を出す望美の様子に将臣は楽しそうに笑い、そして手にしていたおにぎりを一口ほお張った。
「……んー。でも味は悪くないぜ。うん、食える食える」
「ま、将臣くん!?」
将臣の言葉を聞いた望美が顔を上げると、目の前で不格好なおにぎりを黙々と食べる将臣がいた。
そのことに驚いた望美は、わずかに残っているおにぎりの残がいを将臣の手から取り返そうと身を乗り出した。