この島の食糧は海の幸も果物や野菜も新鮮なので、そのまま食べても十分美味しく、それは料理が得意ではない望美にとってはありがたいことだった。
それに将臣はもともと手先が器用だったし、三年半という過酷な時間を過ごすうちに一通りの家事の腕が上がっていたから、望美がモタモタやっている間に、気がつけば食卓に料理が並んでいた、などということも良くあった。
なので今日も、望美がなにかに触れるたびに「いたっ!」「えーん、しみるよぉっ!」と叫んで指を舐めている横で将臣は、さっさと釜戸に薪をくべたり、取ってきた海老や魚に荒塩を振りかけて下ごしらえをしたりと、鼻歌交じりで楽しそうにこなしていた。
「お前さ、そんなとこでちょろちょろしてっと邪魔だから。こっち来て、火でも見てろ」
望美がおっかなびっくり果物を切っているのを見て(汁がしみるー!と大騒ぎしている時間の方が長い)、とうとう将臣は苦笑を浮かべると、釜の前で立ち上がって手招きをした。
「火の番だったら傷は関係ないだろ。焦げそうになったら呼べよ、ひっくり返してやるから」
「それくらいできるってば」
「嘘つけ。さっき箸持ってわーわー言ってたの、知ってるぜ」
「……う」
将臣が楽しそうに笑って立ち去る背中に向って、望美はべーっと舌を出してみせた。そしてその場にしゃがむと、パチパチと高い音を立てて燃えている薪を見つめて溜息をついた。
「……なーんか悔しいなぁ」
ドジで料理も決して上手ではないが、いちおう自分は女だ。もちろん将臣がなんでもこなしてしまうのは、こんな時は特にありがたいと思うし助かることも確かだ。だが『彼氏に手料理作ってあげたいな』なんて夢見るお年頃でもあるので、なんでも自分よりも上手くこなしてしまう将臣を見ていると、理不尽とはわかっていても腹が立つし悔しい。
「ずるいよ、将臣くん」
眉をしかめたままぽつりと呟くと、後ろから頭をこつんと叩かれた。
「だーれがずるいって?」
「ひゃあ!!」
耳元でそっとささやかれ、望美は弾かれたように背筋を伸ばすと、真っ赤になって耳を押さえた。
「いきなり背後から近づかないで、もぉっ!」
「お、いい感じに焦げてきたじゃん」
望美の怒声など物ともせず、将臣は彼女を後ろから抱えるようにして腕を伸ばすと、楽しそうに釜戸に乗せた網の上の魚の切り身や海老をひょいひょいとひっくり返し始めた。
「おー、美味そうな匂いすんなー」
将臣の身体と腕に押さえ込まれた状態になった望美は、彼の体温を感じる背中の感覚が恥ずかしいやら、将臣の息が耳や首筋にかかるたびにくすぐったいやらで、赤くなってうつむいていた。
彼を『幼馴染』だと思っていたときはなんでもなかった仕草や行動が、この頃はやたらに気になるし、意識してぎこちなくなってしまう。なのに将臣の方は昔のままのようで、今だってのん気に鼻歌なんて唄っている。
「……こういうとこも、すごくずるいんだから」
「なんか言ったか?」
「いーえ、別に」
ぷいっとそっぽを向く望美を不思議そうに見下した将臣は、海老をひとつひっくり返して首を傾げた。
「なんだよ、おかしなヤツ」