「言いたいことがあるならはっきり言え、小日向。ステージで雄弁に語っていた、お前のヴァイオリンの音のように」
思いがけない言葉に、かなでは弾かれたように顔を上げた。そして東金を見返しながら瞬きを繰り返すと、東金は右手で頬杖をつきながら楽しそうに目を細めた。
「まぁ、演奏家が楽器で語るのは当たり前だが。それにしても、お前はステージと普段とのギャップが激しすぎるな……仕方がない、俺がその辺も面倒を見てやる」
「……え?」
「お前、明日からしばらく俺に付き合え」
「つ、付き合うって……あの、なにをですか?」
「決まってる、なにもかもだ。昼メシも付き合ってやるし、当然練習もだ」
「……ご飯はともかく、東金さんが練習を聞いてくれるのは、確かに嬉しいです、けど……」
「だろう? ああ、お前がお望みとあれば、夜も付き合ってやってもいいな」
「……は、い?」
「俺が一晩で、お前をとびきりいい女に変えてやる」
「………………とっ、と、と、東金さんっっっっ!!」
叫んで真っ赤になったかと思うとあわあわと口を動かすのが精いっぱいになってしまったかなでに、東金は大声を上げて笑った。そんな二人を見比べていた土岐は、やがて堪りかねたように肩を小さく震わせて笑った。
「だから言うたやろ、小日向ちゃん。千秋に気をつこうてたら、まんまと丸め込まれてまうて」
「え、ええっ!?」
勝手に助け船を出してくれるだろうと期待して土岐を見たかなでだったのだが、彼女のそんな願いは簡単に破れてしまった。
土岐は「可哀想やけど、こうなったらおとなしゅう千秋に従うほかあらへんなぁ。助けられんで堪忍な」と言いながらも、瞳は東金以上に楽しそうに笑っている。 それで、ようやく二人にはめられたのだと気がついたかなでは、赤くなったり青くなったりしながら東金と土岐を交互に見つめ、やがて「二人とも意地悪ですよぅ……」と半べそをかいて椅子に座り込んだ。
この間も芹沢睦は、ただ黙々と食事を続けていた。
長年、東金と土岐に付き合ってきた彼は、この二人の酔狂には慣れっこになっていて、ちょっとやそっとでは動じなくなっているのだが、それでも食事を終えてトレイを手に立ち上がった時にちらっとかなでに向けた目には、自分の代わりに新たなスケープゴートになってくれたことへの感謝のような、彼女のこれからを案じる哀れみのような複雑な色が浮かんでいた。