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Time Limit

(4)

「お久しぶりです、八木沢さん。狩野さんと伊織くんも、お元気そうでよかったです」

「ええ、おかげさまで。小日向さんも…」

お元気そうですね、と続けようとした八木沢だったが、改めてかなでを見る彼の顔からすっと笑みが消えた。そのまま八木沢はほんの少し眉をひそめ、まばたきを繰り返すかなでの顔をじっと見つめた。

「あ、あの…八木沢さん?」

恐る恐るかなでが声を発すると、八木沢ははっとしたように身を引いて困ったような笑みを浮かべた。

「ああ、すみません。あなたが少し疲れているように見えたものですから」

八木沢の言葉に、かなでは小さく肩を震わせた。だがすぐに軽く笑むと「実はちょっと寝不足気味なんです。皆さんにお会いできるのが楽しみで、昨夜あまり眠れなくて……えへへ」と言いながら照れたように小さく舌を出してみせた。すると八木沢は「…え?」とつぶやいてほんのり頬を染め、狩野と伊織もお互いに顔を見合わせると照れ臭そうに頭を掻いた。

「い、いやぁ。小日向さん、口がうまいなぁ。けどお世辞でも、なんかそう言ってもらえると嬉しいもんだな、うん」

「そんな、お世辞じゃないですよ。本当ですってば」

狩野の言葉に軽く首を振ったかなでは、くらりと立ちくらみを起こしかけたが、どうにか踏みとどまってまた笑顔を浮かべた。

下手に誤魔化すよりも、ほんの少しの真実を打ち明けたほうが疑われない。そう思って話してみたのだが、それはどうやら正解だったようだ。

八木沢の顔から怪訝そうな表情はすっかり消えていたし、狩野や伊織、いつの間にか復活した新も楽しそうな笑みを浮かべてはしゃいでいる。そんな彼らの様子にかなでは胸をなで下ろし、それから改めて火積に向き直ると、彼の顔を見上げた。

「え、と。久しぶり……っていうのもヘンかな。この前話したばかりだし」

「そ、そうだな…」

「あの……元気そうでよかった、です」

「あ…ああ。あんたもな」

「う…うん……」

「………」

「………」

直接会って話したいことは山ほどあったのに、いざ火積が目の前にいると、かなでは何を言っていいのかわからなくなってしまった。それは火積も同じらしく、視線を泳がせ左手で首の後ろを撫でながら、ただかなでを見つめていた。

「その……あんたに会ったら、いろいろ言いてぇことがあったんだが。なんていうか、いざとなるとこう、照れ臭せぇもん、だな」

「……うん」

うつむいてもじもじと身体を揺らすかなでと、彼女からわずかに視線を逸らしてしきりに頭を掻く火積を、八木沢達はしばらく無言で観察していた。が、いつまで経っても黙って向かい合っているだけなので、しびれを切らせた狩野が「あー、えっへん!」とわざとらしい咳払いをし、一歩前に進んだ。

「お取り込み中、たいっへん悪いんですけど、おれら、そろそろハラ減ってきたんだよねー」

声をかけられ、同時に肩を震わせて振り返った火積とかなでは、「す、すんません!」「ご、ごめんなさい!」と声を重ね、示し合わせたように揃って頭を下げた。 その息の合い方に、狩野は驚いたように目を見開いてから苦笑した。同じく八木沢も一瞬ぽかんと口を開けたが、すぐに相好を崩してくすくすっと笑い、それに釣られるようにして伊織も微笑んだが、新だけはぷっと口を尖らせて腕を組んだ。

「もーっ。火積先輩とかなでちゃん、仲よすぎ!」

「なっ!?」

「えっ!?」

「ほら、またぁーっ!」

言いながら呆れたように肩をすくめる新の背後で、また八木沢達が声を立てて笑った。