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憂鬱な三日間

(10)

「それにしても東金さん、いきなり二人で買い物に行って来いだなんて、なにを考えてるんでしょうね?」

助手席に座り眉をひそめるかなでの隣で、ハンドルを握ったまま土岐蓮生は小さく笑んだ。

「さぁ、なんやろなぁ? ようわからんけど、千秋の気まぐれをいちいち気にしとったら、それこそはげてまうで、小日向ちゃん」

「そっ、それは困りますっ!」

慌てて頭を押さえるかなでの様子に、蓮生はまたククッと笑ってハンドルを切った。

「けどそん気まぐれのおかげで、俺は小日向ちゃんと二人っきりでディナーを楽しめたんやから、今回ばかりは感謝せなあかんなぁ」

「あ、えっと、ごちそうさまでした。でも、あんな高そうなお店……よかったんですか?」

「ん? そんなんかまへんて。小日向ちゃんとゆったり過ごせたんやから、あんなんお安いもんや」

「でも土岐さん、あまり食べてなかったような気がするんですけど……」

「ええんよ。俺は目の保養はたっぷりさせてもろたし……食べとる小日向ちゃん、ほんま可愛かったわぁ」

「そ、そんなとこ見てたんですかっ? やだ、もうっ!」

恥ずかしそうに頬を染めるかなでに目を細めた土岐は、すぐに視線を前に向けた。そしてライトに照らされてこちらに向かって来る人影に気づいて眉をひそめると、そのままゆっくりとブレーキを踏んだ。

「あ。着きました?」

土岐を見上げていたかなでは、車が止まったことに気がついてシートベルトを外し始めた。そして正面を向いたところで、車のライトに照らされている人物に気がつき、大きく目を見開いた。

「ほづみ、くん…」

目の前で車が止まったことに気がついた火積は、激しい呼吸を押さえながら足を止めた。そして道の脇に寄って車をやり過ごそうとしたのだが、その助手席に探しまわっていた相手がいることに気がつき、かなでと同じように目を見開いた。

「こ、ひ……なた」

カチャリ、と助手席の扉が開き、そこからかなでが姿を現した。彼女は呆然とした表情で火積をただ見つめていて、なかなか動こうとはしなかった。すると運転席から土岐が少し身体をずらし、かなでの腰をポンと軽く叩く。驚いて振り返ると、土岐はまるで何もかも心得たような笑みを浮かべていた。

「はよ行ったり。えらい辛そうや……よっぽど探しまわったんやろな、あんたのこと」

「土岐さん……」

「後のことは心配せんでもええよ。千秋の買い物はちゃんと渡しとくし。ほな、頑張りや」

「あ、ありがとうございます…っ!」

土岐にぺこりと頭を下げたかなでは助手席の扉を閉めると、そのまま火積に向かって駆け出した。そして二人が並んだところを見届けた土岐は、口元に微かな笑みを浮かべると、車をわずかに後ろに下げ、それから改めて二人の脇を通り過ぎた。