「カッコつけてっからそんな目にあうんだよ。てめーは」
「ゼフェルぅ…」
マルセルは、馬鹿馬鹿しいとそっぽを向くゼフェルの服の裾を引っ張りながら、ランディをちらりとみる。ランディは反論もせず、こちらもきまり悪そうに視線をそむけた。が、うっかり身体を捻ってしまい、体中に激痛が走る。
「ってて…」
「大丈夫、ランディ?」
「ハハ、平気……痛ってーっっっ!!!」
「わっ、ご、ごめん!」
ランディの叫び声に驚いて、マルセルは慌てて手を離した。しかしついにランディは、痛みに堪え兼ねて思わずしゃがみ込んでしまった。
「……ばっかみてー」
「ラ、ランディ様。ゼフェル様なりに心配してらっしゃるんだと思います、僕」
ゼフェルの人を小ばかにしたような捨て台詞に、ティムカがおろおろしながら仲裁に入った。
「なっ! 誰がこんなのーてんきやろーの心配なんかするかっ!」
またけんか腰になるゼフェルをちらりと睨み上げ、ランディは力ない笑顔を浮かべてティムカに向き直る。
「ありがとう、ティムカ。心配してくれて」
そのままランディは、ゆっくりと立ち上がってぽつりと呟いた。
「……やっぱ、このテの顔した奴とはあわないや、俺」
「んだとー! それはこっちの台詞だっっ!」
「お子様達は元気だねぇ」
オリヴィエは楽しそうに4人のやりとりを見つめている。
「オスカー様は大丈夫? 痛くない?」
メルは心配そうにオスカーの肩に視線をやった。
「俺はあの坊やとは違うからな。心配するな」
「血の気が多いからねーアンタは。少し抜けてちょうどいいんじゃなーい?」
「オリヴィエ様…」
余りな物言いに、エルンストは誤魔化すように軽く咳払いをする。しばらくオリヴィエを黙って見つめ返していたオスカーはハァと息を吐いて、ふらりとワインの置かれたテーブルへと向かって行った。
「……少しでもあの時感心した俺が馬鹿だったよ」
「どういう意味よ、それ?」
「君を守るよって…。きゃっ! …聞いてる? ねぇ」
「はいはい、聞いてますって」
女王アンジェリークはロザリアの腕をつかみ不満そうに見上げた。彼女の物欲しそうな視線についに絶えかねたのか、ロザリアはため息をつくと女王に向き直った。
「陛下を聖地へ送り届けるのは俺の務めです、って言ったんでしょう?」
「もーっ、やっぱり聞いてないじゃない。陛下じゃなくてアンジェ、よ」
どっちでも同じ事じゃない、とロザリアは頭を抱えた。しかし恋する乙女アンジェリークにとっては、極めて重要なことであったらしい。
「と、こ、ろ、で」
何を思ったのか、急に女王はくすっと笑うと、側に控えて聞こえないふりをしていたジュリアスに向き直り無邪気に尋ねた。
「あなた達はどうなの? ジュリアス」
「えっ!?」
「な、何を言いだすのよ、あんたはっ!」
ジュリアスは明らかに狼狽していたし、ロザリアも思わず顔を赤らめる。
「またー。ごまかしてもダメよ。ちゃーんと情報が入って来てるんだから。ジュリアスとロザリアは相思相愛だって」
こうなると悪気がないだけにこの女王はやっかいだ。うっと言葉に詰まるジュリアスと慌てて飲み物を取りに行こうとするロザリアの袖をしっかりと掴み、にこっと満面の笑みを浮かべた。
「ね。教えてくれたっていいでしょ? 悪い事じゃないんだし」
「……それは是非とも私にも聞かせてもらいたいところだな、ジュリアス」
クラヴィスは目を細める。無表情なのは相変わらずだが、目は笑っているように見える。ジュリアスにはその表情がカインとだぶって見えた。
「クラヴィス……そなたっっ」
「終わりよければすべてよし、ですよ」
ルヴァはにっこりと笑う。そのいつもと変わらぬ笑顔につられてヴィクトールも微笑み、その隣でリュミエールは苦笑した。
「そうですね。私は何もかも抱え込んでしまう。……悪い癖ですね」
「でも、それは……あなたの優しさゆえでしょう?」
「……」
「どこ行くんだい?」
こっそり抜け出したつもりだったのに、後ろから声をかけられてチャーリーはぎくりとした。
「セイランさんかぁ。もーおどかさんといてや」
「別におどかしたつもりはないよ。ただ皆が楽しんでるのに、一番お祭り騒ぎが好きそうな君がこっそり抜け出そうとしてるのが気になっただけさ」
チャーリーは、ハハと頭を掻いた。
「ま、俺もこれでなかなか忙しい身体でなぁ。その、あんまり長いこと行方くらましとるわけにも行かんのや」
「宇宙の次は自分の会社かい? 波乱に富んだ人生だね、羨ましいよ」
「何なら変わってもええで。さすらいの詩人、なんて俺の風貌にぴったりやと思わへん?」
「いや、遠慮するよ。束縛されるのは大嫌いなんでね」
セイランはくるりと踵を返すと、自分の部屋に戻っていった。その後ろ姿を見送りながらチャーリーはクスリと笑う。
「束縛の嫌いなお人が、こない面倒な事に最後まで付きあうわけあらへんわ」