陰陽夢

(19)

「どうした? 助けたければ死ぬ気で我に立ち向かったらどうだ? それとも……失わねばわからぬか?」

レヴィアスがじわじわと腕に力を込めると、アンジェリークは身体をのけ反らせる。

『……私、わた……し、こんな処で死ぬの……?』

あなたを助ける事も出来なくて。故郷を救うことも出来ないままで。

こんな処で死ぬのはいや。

約束…したよね。どんな事があっても、私を守ってくれるって……。

アンジェリークは喘ぎながら、懸命にレヴィアスの腕を掴み声を搾り出すようにして叫んだ。

「……ア、リ…オス」

ドクン、とレヴィアスの身体が身じろいだ。と思うと腕の力が徐々に緩み、震えるように手を放した。

アンジェリークの身体が支えを失って階下へと落下する。オリヴィエは慌てて走り寄ると、地面に叩きつけられる前になんとか受け止める。

そして、激しく咳き込み肩で息をするアンジェリークをルヴァにまかせると、祭壇で頭を押さえて苦しそうにもがくレヴィアスを睨み付けた。

レヴィアスは苦悶の表情を浮かべて、ついにその場に蹲ってしまった。

「ど、どーしたんだよ、あいつ」

そのあまりの苦しみ様に、ゼフェルは不思議そうにレヴィアスを見つめて呟いた。

「……っの分際で…な、にをするつもり…だ!」

レヴィアスは頭を抱え、がたがたと身体を震わせながら叫んでいる。それはまるで、目に見えぬ何かに抗う様にも見えた。

 

『……はやくしろ! 俺がこいつを抑えてる間に!』

 

突然、立ち尽くす5人の頭の中に、直接誰かが話しかけてきた。

その声は耳に聞こえたわけではなかったが、その場の全員にとって聞き覚えのある声だとわかった。

「…アリオス!?」

ルヴァは全員の心に浮かんだ名前を思わず口に出してしまった。そしてアンジェリークを抱えたままきょろきょろと周りを見回したが、仲間ともがき苦しむレヴィアスの姿以外はなにも見当たらない。

「アリオス、あんた生きてるの? どこにいるんだい?」

オリヴィエも叫びながら周囲に視線を走らせる。

 

『探したって見えねぇよ。俺はもう実体じゃねぇんだから』

アリオスの答えに、ゼフェルの背筋にぞくっと戦慄が走る。

「まさか幽霊かよ……」

『……似たようなモンだな』

皮肉一杯の答えはいつものアリオスだ。ヴィクトールは用心深く辺りに注意を払って観察し、ある人物の震える背中が目に入って愕然とする。

「…まさか」

ヴィクトールの漏らした言葉は皆に伝わり、驚愕と疑惑を込めて全員が一様にレヴィアスを見つめた。

「……こいつの…中に…?」

姿なき声は、いらついた様にさらに調子を強めた。

『いいからはやくこいつを倒しちまえ! こいつの支配力は……俺より遥かに強い。そんなにはもたねえ』

「……マジかよ」

ゼフェルがつぶやく隣で、ヴィクトールははっと我に返り天井に向かって叫んだ。

「しかし、そんな事をしたらお前まで……」

そして悶絶するレヴィアスに視線を戻して、剣を握る手に込めた力を僅かに緩めた。

『もともとアリオスって男はいなかった。……それだけのことさ』

自分自身を笑うかのようにアリオスは答える。だが、ヴィクトールは諦めなかった。

「何を言ってるんだ。他にも何か方法があるはずだ。お前を助けてレヴィアスを倒す方法が」

ヴィクトールがそう叫ぼうとするのをオリヴィエはすっと押しとどめ、かちりと音を立てて細身の剣を握り直した。

「割り切り早いね、アリオス。……言っとくけど私は手加減しないよ。チャンスは有効に使わせてもらうからね」

「オリヴィエ様っ!?」

『ああ。……わかってる』

アリオスの声が答えるのを待って、オリヴィエは武器を胸元に構えてポツリと呟いた。

「今、あんたを自由にしてあげるよ……アリオス」