「どうした? 助けたければ死ぬ気で我に立ち向かったらどうだ? それとも……失わねばわからぬか?」
レヴィアスがじわじわと腕に力を込めると、アンジェリークは身体をのけ反らせる。
『……私、わた……し、こんな処で死ぬの……?』
あなたを助ける事も出来なくて。故郷を救うことも出来ないままで。
こんな処で死ぬのはいや。
約束…したよね。どんな事があっても、私を守ってくれるって……。
アンジェリークは喘ぎながら、懸命にレヴィアスの腕を掴み声を搾り出すようにして叫んだ。
「……ア、リ…オス」
ドクン、とレヴィアスの身体が身じろいだ。と思うと腕の力が徐々に緩み、震えるように手を放した。
アンジェリークの身体が支えを失って階下へと落下する。オリヴィエは慌てて走り寄ると、地面に叩きつけられる前になんとか受け止める。
そして、激しく咳き込み肩で息をするアンジェリークをルヴァにまかせると、祭壇で頭を押さえて苦しそうにもがくレヴィアスを睨み付けた。
レヴィアスは苦悶の表情を浮かべて、ついにその場に蹲ってしまった。
「ど、どーしたんだよ、あいつ」
そのあまりの苦しみ様に、ゼフェルは不思議そうにレヴィアスを見つめて呟いた。
「……っの分際で…な、にをするつもり…だ!」
レヴィアスは頭を抱え、がたがたと身体を震わせながら叫んでいる。それはまるで、目に見えぬ何かに抗う様にも見えた。
『……はやくしろ! 俺がこいつを抑えてる間に!』
突然、立ち尽くす5人の頭の中に、直接誰かが話しかけてきた。
その声は耳に聞こえたわけではなかったが、その場の全員にとって聞き覚えのある声だとわかった。
「…アリオス!?」
ルヴァは全員の心に浮かんだ名前を思わず口に出してしまった。そしてアンジェリークを抱えたままきょろきょろと周りを見回したが、仲間ともがき苦しむレヴィアスの姿以外はなにも見当たらない。
「アリオス、あんた生きてるの? どこにいるんだい?」
オリヴィエも叫びながら周囲に視線を走らせる。
『探したって見えねぇよ。俺はもう実体じゃねぇんだから』
アリオスの答えに、ゼフェルの背筋にぞくっと戦慄が走る。
「まさか幽霊かよ……」
『……似たようなモンだな』
皮肉一杯の答えはいつものアリオスだ。ヴィクトールは用心深く辺りに注意を払って観察し、ある人物の震える背中が目に入って愕然とする。
「…まさか」
ヴィクトールの漏らした言葉は皆に伝わり、驚愕と疑惑を込めて全員が一様にレヴィアスを見つめた。
「……こいつの…中に…?」
姿なき声は、いらついた様にさらに調子を強めた。
『いいからはやくこいつを倒しちまえ! こいつの支配力は……俺より遥かに強い。そんなにはもたねえ』
「……マジかよ」
ゼフェルがつぶやく隣で、ヴィクトールははっと我に返り天井に向かって叫んだ。
「しかし、そんな事をしたらお前まで……」
そして悶絶するレヴィアスに視線を戻して、剣を握る手に込めた力を僅かに緩めた。
『もともとアリオスって男はいなかった。……それだけのことさ』
自分自身を笑うかのようにアリオスは答える。だが、ヴィクトールは諦めなかった。
「何を言ってるんだ。他にも何か方法があるはずだ。お前を助けてレヴィアスを倒す方法が」
ヴィクトールがそう叫ぼうとするのをオリヴィエはすっと押しとどめ、かちりと音を立てて細身の剣を握り直した。
「割り切り早いね、アリオス。……言っとくけど私は手加減しないよ。チャンスは有効に使わせてもらうからね」
「オリヴィエ様っ!?」
『ああ。……わかってる』
アリオスの声が答えるのを待って、オリヴィエは武器を胸元に構えてポツリと呟いた。
「今、あんたを自由にしてあげるよ……アリオス」