「ジュリアス……他の方々はどちらに?」
ジュリアスに手を引かれ、息を切らせて走りながらロザリアは尋ねた。
「旧き城跡の惑星に向かった。…皇帝と決着をつけるために」
答えたジュリアスは走るのをやめて立ち止まり、はぁっと肩で息をつくロザリアをじっと見つめながら自分も呼吸を整える。そして、その視線に気づいたロザリアが顔を上げるのを見て、ふっと視線を逸らした。
「彼女が……アンジェリークが私に言ったのだ。陛下とそなたを助けに行って欲しいと」
「あの子が?」
ジュリアスは軽くうなずき、言葉を続ける。
「今ならば敵の警備も手薄になっているはず。こちらに注意を引きつけるので、目立たないよう少人数で主星に戻り、陛下を救出してくれとな」
「では……人選も?」
「ああ、彼女が決めた。ランディは最初から行かせようと思っていたようだがな」
『彼女は知っていたもの。……陛下とランディの事を』
ふたりの事を知っていたからこそ、栗色の髪の少女はランディを東の塔へと向かわせたのだろう。女王が、金の髪の少女が何を望んでいるかわかっていたから。
あの子は……そういう子だ。
ロザリアは目の前にいるジュリアスを見上げた。
彼に訊ねたかった。……何故彼が自分の目の前にいるのか、と。
『あの子に言われたから? ただそれだけなの…?』
「ジュリアスは…」
「私が、どうしたのだ?」
真っ直ぐに見つめ返す青い瞳に、ロザリアは吸込まれてしまいそうな感覚を覚えた。
「ジュリアスは……どうして選ばれたのですか? ランディやオスカーはともかく、何故あなたが」
ロザリアはジュリアスをじっと見つめ返す。
するとジュリアスは、いつもの彼らしくなく視線をさまよわせてふっと横を向く。だがやがて、決心したように軽く咳払いをするとぽつりと呟いた。
「そなたが……ロザリアが待っているから、と。私が迎えに行くことを何よりも望んでいるはずだからと……言われたのだ」
その答えを聞いた途端、ロザリアは自分の顔がみるみる赤くなるのを感じた。
『あの子ったら……私の気持ちをどうして…?』
ロザリアが頬を染めて俯くのを黙って見下ろしながら、ジュリアスはロザリアの手を覆うようにして掴んだままの指先にぎゅっと力を込めた。
「……私もそなたを……そなただけはこの手で救い出したいと思っていた。それをアンジェリークに見透かされたようで…驚いた」
「ジュリアス……」
ロザリアがふっと顔を上げた。俯いていると涙が零れそうになってしまったからだ。開いている左手で口元を押さえながら瞳を潤ませているロザリアに、ジュリアスは照れたように優しく微笑んでみせた。それは多分、今まで他の誰にも見せたことのない、ロザリアにだけ向けられた優しい笑顔だった。
「急ごう。……陛下とランディが心配だ」
ロザリアはジュリアスの手をそっと握り返した。
そして軽く頷くと、最高の笑顔を光の守護聖に向ける。
「はい……行きましょう」
「そんなに急ぐ必要はありませんよ」
何処からか聞きなれた声が響いてくる。ロザリアは驚いて辺りを見回した。
「皇帝の手のものだな。姿を見せるがいい!」
ジュリアスはすっとロザリアの手を離して二三歩前に進むと、正面を睨みつけ誰何する。声をかけた者はゆっくりと実体化してゆく。
ロザリアは段々はっきりしてゆく彼の姿を見て、思わず口元に手を当ててしまった。まるで、信じられないものを見たかのように。
「あなた…まさか……」
完全な姿となった彼は、苛立つほどゆっくりと顔をあげる。
そしてまずロザリアをみつめ、次いでその視線をジュリアスへと移す。
驚いて息を呑む二人をじっと観察し、闇の守護聖クラヴィスの姿を借りた人物は重々しく口を開いた。
「…すぐに皆さん、同じところへ行けるのですから…」
ジュリアスはすらりと剣を抜きはなち、後ろ手にロザリアを庇う。
「あなた方には感服しました。隙をついて女王を救出しようとは考えましたね。ですが…」
すっと目を細めて、彼=カインは薄く笑う。
「……いささか詰めが甘かったようですね」
ジュリアスも剣を構えたまま、僅かに微笑み返した。だがそれは、さきほどロザリアに見せた優しい微笑みではなく、目の前の相手を侮蔑するような不敵な笑いだった。
「……私の相手はそなたというわけだな。…よかろう」
「何がよいのです?」
ジュリアスがふっと笑いながら言う台詞に、カインは不審そうに呟く。
「そなたが相手なれば、心置きなく剣が奮える」