「あなたは誰?」
アンジェリークの問いかけに、少女はゆっくりと口を開く。
「私はエリス……。レヴィアスを見守る者……」
「レヴィアスを…?」
エリスと名乗った幻の少女は、見る見るうちに空間に溶け込んでいく。
「ま、待って! もう少し話を聞かせて!」
アンジェリークは湖に足を踏み入れた。だが幻の少女はこちらを一瞬見つめたが、すぐに目を伏せたったひと言を残して消えていった。
「……ごめんなさい」
「お嬢ちゃん、何してるんだ!」
オスカーが慌てて近づいてきた。そしてマントを外すと、湖の中で立ち尽くしたままのアンジェリークの肩にそっと掛けてやる。
「さ、戻ろう。風邪を引くぞ」
「……ごめんなさいって。どうして私に謝るの?」
オスカーに促されて、とぼとぼと岸へ向かって歩きだす。
「大丈夫ですか、アンジェリーク?」
岸に上がったアンジェリークの手を取り、リュミエールは心配そうに声をかける。彼の困惑した表情を見て、アンジェリークはやっと安心させるように笑った。
「ご心配かけてすみません、リュミエール様、オスカー様。私は……大丈夫ですから」
彼女の明るい表情を見て、その場の全員の張りつめた空気が少し和む。
「アンジェリーク……」
突然メルが苦しそうに声をだした。両手で自分の身体を抱え、がたがたと震えている。
「メルさん? どうしたんですか?」
アンジェリークが慌てて走り寄るよりも早く、クラヴィスがすっとメルの側に寄り添い、その肩に手を乗せた。
「やはりおまえも感じたか」
あまり感情を顔にださないクラヴィスが微かに眉をしかめているのを見て、リュミエールはメルと闇の守護聖を交互に見比べて、不安げに呟く。
「クラヴィス様……嘘だよね? メルの勘違いだよね?」
メルは青い顔をしながら、クラヴィスの服をぎゅっと握りしめる。
「もったいぶってないで説明してよ、クラヴィス」
オリヴィエは珍しく苛立っていた。アリオスが姿を消し、誰もが言い知れぬ不安を感じている時だったこともあり、皆は一様に頷く。
メルは下を向いて震えていた。クラヴィスの服を掴んだままだ。
そんなメルを見下ろしクラヴィスは、視線をアンジェリークに向けた。その瞳の悲しげな様子にアンジェリークは一瞬躊躇ったが、やがて意を決したように表情を引き締め言葉を発した。
「おっしゃって下さい、クラヴィス様」
「よいのか?」
「はい」
アンジェリークの強い答えに、クラヴィスはゆっくりとメルを見下ろす。
メルはぎゅっと唇を噛みしめている。やがてその大きな瞳に見る見るうちに涙が込み上げ、うっうっと嗚咽を漏らし始めた。それを黙って見つめた後、再びアンジェリークを正面から見据えて、クラヴィスはゆっくりと口を開いた。
「……先程、アリオスの気配が消えた。おそらく、この世にはもういまい」
「……え?」
何を言われたのか理解出来ず、アンジェリークは呆けたように立ち尽くした。
「アリオスが……」
アンジェリークは虚ろに呟くと、ふらりと後ろに下がる。よろめく彼女の手から、蘇ったばかりのロッドがまるでスローモーションの様に地面に落ちた。
そして彼女は、足下から崩れるようにその場に倒れた。