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ようやく族長の許可を得て自然洞窟に入った一行は、そこで思いがけず落盤に遭う。
自分の身を守るので精一杯だったアンジェリークは、どこをどう逃げたのか分からなかった。
誰かに突き飛ばされて岩の直撃を避けた彼女は、気がつくと自分一人きりになっており、辺りは恐ろしいほど静まり返って誰も見当たらない。
誰かが岩の下敷きになっているなど考えたくなかったが、それでも勇気を振り絞っていちいち確認しながら先を急いだ。
何度目かの角を曲がった時、前方の岩陰に何かの気配を感じ、震えるひざを何とか持ち堪え、アンジェリークは闇に向かって誰何する。
「誰? 誰かそこにいるんでしょう? 出てきなさいよっ!」
「……おまえか、アンジェリーク?」
薄闇の中からゆっくりと懐かしい姿が現れる。
アンジェリークは思わず駆け出してしまい、気がつくと彼にぎゅっとしがみついていた。
それでもまだ信じられず、何度も何度も声に出して問いかけてみる。
「アリオス……だよね? 本物だよね……?」
「何言ってんだ、おまえ? 俺以外誰だってんだよ」
「だって……だ、だって……」
アンジェリークは慌てて目を擦る。涙を隠しているのだろう。
そんな彼女の小刻みに震える肩を、アリオスは優しくそっと抱きしめた。
「……すまねえな。おまえ一人にしちまって」
「ううん。でも、あなたに怪我がなくてよかった……」
「あのな、俺は不死身だぜ? これくらいでどうにかなる訳ないだろ?」
「……そうよね。私を守ってくれるって約束したものね」
アンジェリークは、ふっと緊張の糸が切れたのかアリオスの胸にトンと軽く頭をぶつける。ふわっと暖かい物がアリオスの胸の内に込み上げ、思わずアンジェリークの肩に置いた手に力がこもった。
「アンジェリーク……」
大切な物に触れるように恐る恐る、だが愛おしげにアリオスが彼女の髪を撫でると、アンジェリークはふっと目を閉じ安心したようにアリオスに凭れ掛かった。だが次の瞬間、微かに身体を震わせたかと思うと、がくんと急に全身の力が抜けてその場に崩れ落ちた。
「アンジェリーク!」
アリオスが驚いて慌てて抱きかかえる。するとアンジェリークはその腕をすっと掴み、下を向いたままゆっくりと話しはじめた。
「……こにいたのね、レヴィアス」
「……え? な、なんだと!?」
「……優しかったあなたが、あんな事をするなんて信じられなかった。
私に微笑んでくれたあなたが……。でも、本当のあなたはここにいたのね?」
アンジェリークは淡々と話し続ける。
だが、アリオスにはわかった。ここにいるのは彼女じゃない、他の誰かだと……。
「……誰だ、おまえ? アンジェリークじゃないな」
「……忘れてしまったの、レヴィアス? 私のこと」
「俺はレヴィアスなんかじゃねぇ。あんたのことも知らないな。……アンジェリークはどこにやったんだ? 何をしたんだ、彼女に。事と次第によっちゃ許すわけにはいかねぇぞ」
「彼女なら大丈夫……少し眠っているだけだから」
アンジェリークの身体を借りた者はゆっくりと顔をあげた。
そして真っ直ぐにアリオスを見つめる。その視線にアリオスは見覚えがあった。
……ここしばらく、いつも見ていたあの悲しそうな瞳。
「おまえ……夢の中の……?」
彼女はその答えに、懐かしそうに嬉しそうに微笑みかける。
「私はエリス……。夢の中でいつもあなたに話しかけていたわ。……やっと、やっと会う事が出来た、私の……レヴィアス」