? Guys and Dolls

蒼天幻想

第八章(3)

「ごくろうだった、オスカー、オリヴィエ、ルヴァ。年少の者達をよく見つけ出したな。チャーリーとヴィクトールには最後まで迷惑をかけたようだな。陛下になり代わって私から詫びをしよう」

「なんでアンタがここに来たの? 私達を信用してなかったって事かい?」

オリヴィエが不満げにジュリアスに詰め寄ると、ジュリアスは胸のポケットに丁寧に折って入れていた紙切れを無言でオリヴィエに渡した。

「なに、これ?」

「開けてみろ」

オリヴィエががさがさと紙を開き、そこに描かれた絵を見て苦笑いした。

「あはは、こんなものがアンタのトコに届いてたの?」

「なに、なに?」とオスカーとヴィクトール以外の全員が、オリヴィエの手元を覗き込んだ。

オスカー、ヴィクトールの二人は素早くその内容に思い当たって、頭を押さえている。

「……指名手配書」

「ランディだぁ。あはは、結構似てない?」

「そうですねぇ……この辺はちょっと似てますねぇ、ほらこの口元」

「有名人やなぁ、ランディ様! こんなおっとこ前に描いてもろーて」

「ぎゃははは! だ、ダサすぎるぜ!」

「……兄上をさらった凶悪犯だって。ランディ、そんなひどい事したんだ」

反省の色無く大騒ぎを続ける一行の上に、ついに「天光の一撃」が炸裂した。

「そななたちっっっっっっっ! 早く宇宙船に乗らんかっっっっっっっっ!」

 

「ゼフェル、それもしかして……」

ゼフェルがナップザックの中から取り出した布を見て、マルセルは問いかけた。

ゼフェルはその布を丁寧に伸ばすと、自分の頭に軽く巻いて見せる。

「ティールが餞別にってさ。……言っとくけど、変な意味で受け取ったんじゃねぇぞ」

「……ふーん」

マルセルが少しつまらなそうに呟いた。

「ゼフェルばっかりずるいなぁ」

「ま、オレは代表でもらったようなもんだ。いつまでもオレ達と一緒でいられるように、自分の代わりに聖地へ連れて行ってくれってさ。……くっさい事言うよな、さすが王子だぜ」

「……そっ、か」

マルセルはたちまち機嫌を直すと、振り向いて背もたれに寄りかかった状態から正面を向いてきちんと座り直した。そして窓に肘をついて、黙って外を見つめるランディに声をかける。

「ランディ、考え事?」

「うん……世の中って広いなぁと思ってさ。俺、自分ではこの歳では結構強いほうだと思ってた。でも、ティールはマルセルと同じくらいなのに、俺なんか足元にも及ばないくらい強い。正直言うとさ、ショックだったんだ。……目標がまた増えちゃったな」

そう言うとランディは自分の指を折って、目標をひとつひとつ確認した。

「オスカー様から一本取ることだろ。ゼフェルを更生させることだろ。マルセルのちゃんとしたお兄ちゃんになることだろ。それから…ティールのように強くなること。力だけじゃない、悪い心をはじき飛ばせるほど強くなること」

「――ぼくも、マルドゥークに来られてよかった。いろいろあって大変だったけど……無駄じゃなかった気がする」

「ああ……」

ランディとマルセルは黙って窓の外を見つめる。

もうこの星を訪れる事はないだろう。守護聖としての任を終え、ただの人に戻って再びここに来ても、知っている人はいない。

そう考えると涙が出そうになるが、それでも思う。

……ここに来てよかった。彼らに逢えてよかったと。

 

「なぁ、ルヴァ」

「はい?」

ゼフェルは正面を向いたまま、故郷で仕入れた分厚い本をめくるルヴァにぼそっと呟いた。

「あんたさ、なんでそのターバンはずさねーんだ?」

「言ったでしょう? 宗教的な物で大事な人の前でしか……」

「はずさねーってんだろ? ……でも、その……オレらのことは……大事じゃねーのかよ」

ルヴァは本に落としていた視線を上げて、驚いたようにゼフェルを見返した。

ゼフェルは視線を合わせない。不貞腐れたように前の席の背もたれをじっと見つめたままだ。

「ティールが、ターバン外すのには二通りの意味があるって言ってた。相手が異性だったら求婚だけど、同性だったら友情の証だって。どちらにしても、心を許した相手じゃなきゃ、頭は見せないんだって」

『ルヴァ、あんたはそれを知ってるのか? 知ってるとしたら……オレには心を許してないってことなのか?』

ゼフェルの無言の抗議に、ルヴァはしばらく彼の顔をじっと見つめ、やがて苦笑した。それは彼の子供が拗ねたような態度にではなく、いまだに壁を作って閉じこもろうとしている自分に対してのにが笑いだった。

「――こういった習慣も、時代が変われば意味も変わってくるのですねぇ。私があの星にいた頃にはまだ古い因習のままだったんですよ。でも……そうですね。私も少し生まれ変わったほうが良いみたいですね」

父親への誤解が総てがとけたわけではない。それでも、あの決して読むことのないと思っていた置き手紙を眼にしたことで、ほんの僅かだが距離が縮まった気がする。

父親がこちらに踏みだしてくれたのだ、今度は自分の方からゼフェルに歩み寄る番かもしれない。

ルヴァはぱたん、と本を閉じると手を頭にやってしゅるしゅるとターバンを外した。そしてまじまじと見つめるゼフェルの驚いた顔に照れ臭そうに微笑んだ。

「聖地に帰ったら、陛下もロザリアもいる事ですし、公式の場では今まで通りの格好でいさせてもらいます。でも、あなたといる時は外すことにしますよ」

ゼフェルはふっと軽く笑うと、感心したように呟いた。

「ルヴァ……あんた、意外と若かったんだな」