? Guys and Dolls

蒼天幻想

第八章(2)

「あ、お土産忘れちゃった。アンジェとレイチェルに何にも買ってないよ」

「そういえばマルセル、メルにも買ってなかったよな。今から行っても間に合うかな?」

マルセルとランディが空港の売店に駆け出そうとするのを、オリヴィエとオスカーが慌てて羽交い締めにする。

「ちょーっとまちなっ! アンタ達ちっとも懲りてないじゃないの!」

「またおまえらを探し回るなんざ、ごめんだ。大人しく座ってろっ!」

「オリヴィエ様、ずるいですよ! ご自分だけそんなにお土産買っちゃって」

「当たり前じゃない! こんな楽しみでもなきゃ、こんな砂しかない星に来ないよ」

「すみませんねぇ、オリヴィエ。こんな砂と砂漠しかない星で」

「や、やだなぁ、ルヴァったら! 言葉のアヤって奴じゃない。そんな目を細めて睨まないでよ」

「……この目は元々です」

ゼフェルが相変わらずだなぁとそっぽを向くと、楽しそうに微笑むティールと目が合った。

するとティールはくいっとゼフェルの腕を掴んで引っ張る。

「ちょっと渡したい物があるんだけど……こっち来てくれる?」

「なんだ?」

ティールに引っ張られて仲間の輪から外れると、ランディとマルセルがそれを見とがめ抗議する。

「あーずるい! 一人で抜け駆けしてお土産買いに行くつもりなんでしょ!?」

「ちっげーよっ!」

「ごめん、マルセル、ランディ! 二人にも後で見せるから!」

ティールはゼフェルの腕を引っ張りながら二人に謝り、なおもゼフェルを連れて宇宙艇が止まる滑走路の隅に連れてきた。

「何だよ、渡したいもんって?」

ゼフェルが不審げに問いかけると、ティールはにこりと微笑んで頭に手を置いた。そして左側で結んだターバンの結び目を解いて、くるくると頭から外し、驚くゼフェルに今外したばかりのターバンをそっと手渡した。

「な! こ、これ、お、おまっ!」

「これ、ゼフェルにあげる。おれの気持、おれのかわりに聖地に持ってってよ」

ごうっと砂煙が吹き、ティールが顔を背けて目を瞑った。彼の薄茶色の髪がさらりと風に揺れる。

「……ティール」

ゼフェルはごくんと唾を飲み込んで、ティールの蒼い瞳をジッと見つめた。

「なに?」

ティールは伏せた目をふっとあげて、ゼフェルの赤い瞳を見つめ返す。

ゼフェルは乾いた唇を舌で軽く潤すと、意を決したようにがしっとティールの肩を掴んで彼の顔に自分の顔を近づけ、微かに唇を開いた。

「……ごめん。オレ、お前の気持に答えられねー。そーゆーの駄目ってゆーか理解出来ないってゆーか……」

「……はぁ? なに言ってんの?」

「だっておめー、ターバン外すってのは……」

大切な人の前でだけ外すターバン。そうルヴァに教わった。ティールが自分の前でこのターバンを外したという事は、ティールが自分を好きだという事で……その好きっていうのは……つまり。

ゼフェルの頭の中を混乱が襲っていた。しかしティールはそんな彼の混乱など意にも介さずさらりと言ってのけた。

「おれの友情の証! おれとゼフェルはずーっと友達だって印なんだけど」

「友情……?」

そこでこの星についてすぐ、マルセルが教えてくれた事を思いだした。

『――この星の人々にとって、頭っていうのは神聖な場所なんだ。神様である太陽にいちばん近い部分だから。だから神様が見ている間は、絶対人前で頭を見せてはいけないんだって。でも心を許した人間には、自分の総てを知ってもらう為に、神様にその人と自分は特別なんだって教える為にその人の前でだけは聖布を外してもいいんだって』

「渡す相手は男とか女とかかんけーねーのか?」

「渡す相手によってちょっと意味が違うんだ。異性に渡すとその人に求婚したことになるし、同性だったら無二の親友だって認めた事になるんだけど……ゼフェルはおれと親友になるのはいや?」

「そ、そんなことねーよ。オレはてっきり……うん! オレとお前は親友だっ! ちょっと勘ぐっただけだ、気にすんな!」

「勘ぐった……?」

「気にすんなって! ほらみてみろよ、空が綺麗だぜっ!」

ランディのような爽やかな台詞に、ゼフェルは我ながら鳥肌が立ったが、この際ティールの関心を他に移す事が先決だった。

り、ティ-ルはゼフェルが指差す空を見上げ歓声をあげた。

「うわー! ほんとだ。立派な宇宙船だ!」

「へ? 宇宙船?」

ゼフェルとティールが見つめる中、中型の宇宙船はゆっくりと着陸する。砂塵が再び巻き上がり、二人の少年は目を瞑った。

風が止んだのを肌で感じて、ゼフェルはそっと目を開けてみた。すると宇宙船の下部が開き、そこからある人物がすっとマルドゥークに降り立った。

金色の豪華な髪が動きやすいようひとつに束ねられている。すらりと身体に合った衣装を身に付け、優雅に歩く姿は神々の彫像のようだ。

その人物は眩しげに青い瞳をふっと伏せて、顔をこちらに向けた。そして立ち尽くすゼフェルとティールを見つけると、微かに眉毛をぴくりとあげて、よく通る低い声をその整った唇から発した。

「――何をしているのだ、ゼフェル。他の者達はどうした?」