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「……あと何回だぁ、マルセル?」
「うーんと……あ、半分いったよ! あと5000回!」
「……まじかよ」
ゼフェルはうんざりとした表情で舌を出した。そして手にした筆をほおり投げるとごろんと横になる。
「あーやめだ、やめ! んな事やってられっか!」
「それじゃあ、いつまでもこの屋敷から出られないよ?ランディは真面目に書いてるんだから、ゼフェルもちゃんとやった方がいいって」
「よく考えてみたら、なんでおめーは許されてんだ? オレらと一緒だったじゃねーか」
ゼフェルが上体を起して、マルセルを軽く睨む。マルセルはティーポットを傾け、こぽこぽと音をたてて紅茶をティーカップに注いだ。そしてゼフェル用にと、冷やしたミネラルウォーターをコップに注いで差し出した。
「ぼくはゼフェル達に無理やり連れていかれたから三日の謹慎でいいって言われたんだ。付き合ったのは確かだからぼくも罰をきちんと受けます、って言ったのにさ。ジュリアス様ったら、そなたは子供で判断力がなかった、ランディとゼフェルにつられただけだ、って。いっつもぼくだけ子供扱いなんだもん、いやんなっちゃうよ」
マルセルはぷっとふくれると、どすんと椅子に座ってこくっと一口紅茶を飲んだ。
「……罰が軽かったのに何怒ってんだ? 変な奴」
ゼフェルは受け取ったミネラルウォーターを口に含んで顔をしかめた。
「てめー! 何度言えばわかんだっ! ミネラルウォーターはこんなにキンキンに冷やしたらうまくねーんだよ!」
ゼフェルが怒鳴ったと同時に作業場の扉が開き、彼の大声に驚いて立ち尽くす二人の少女がいた。
「……おめーら」
「アンジェ、レイチェル。どうしたの?さ、入っておいでよ!」
「…おい、ここはオレんちだぞ」
「謹慎してるって聞いたンだ。で、退屈してると思って…」
「数日前にお約束していたお茶会もまだだったし。それに…」
とアンジェリークが言いにくそうに口元に手を当てた。その彼女を小突いてレイチェルがウインクした。
「すっごい冒険してきたンでしょう、ゼフェル様とマルセル様!その話ぜひ聞かせてもらいたいなーって思ったんだ!…あ、そうそう。ゼフェル様、アンジェったらさ、ゼフェル様がいない間ずーっとそわそわしちゃってさ~。怪我してないかしら、とか危ない目にあってないかしらとか、もー大変だったんだから」
「や、やだっ! レイチェルったら! わ、私は皆さんの心配してたのよっ! ゼフェル様だけじゃなくてマルセル様も、ランディ様も…」
「いいって、いいって! 無理しなくても」
真っ赤になって俯くアンジェを『こいつ、やっぱ可愛いぜ』と思ってしばらく見とれてしまい、やがてはっとゼフェルは我に返った。レイチェルとマルセルが何か言いたそうな笑みを浮かべているのを見て、仏頂面を作ったまま、アンジェリークの腕を掴んで引っ張った。
「……来いよ。んなとこじゃなくて、居間にいこーぜ」
「ゼフェル様…?」
「話、ききてーんだろ? 居間で落ち着いて話してやるって言ってんだよ」
「はい!」
アンジェリークはにこりと微笑むと、ゼフェルの手をきゅっと握り返した。
「ねぇ、ゼフェル。『ごめんなさい、もうしません』ってあと5000回書くのはどうするの? 書き終わらないといつまでたっても屋敷から出られないよ」
「あー。んなの後だ、後! 今は……」
『――新宇宙に行っちまう前に、こいつに話してやらなきゃ。オレがマルドゥークで体験した事。楽しかった事、悲しかった事を全部。そして…ティールの事やマルドゥークの伝説を全部、こいつに教えてやるんだ』
――神の神殿、天の意思。
地霊の想いは大地に溶けて総てを導く。
始まり、そして終焉の広間に。
選ばれし者はふたつ。智、意、力に長けた天霊の子。
女神の泪と共に触れたる時、天地和合の力を以てかの地を癒し民を救う。