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クイトラの谷に眠る過去の文明。
マタルの100%の結晶化、ジャウンの精製。
優れた科学力を持つこの古代文明がなぜ滅んだのか、ルヴァも確かに疑問に思っていた。
気象条件の激変、感染力の強い伝染病の流行。そんなところだろう、と思っていた。
しかし……この文明は外的要因で滅ぼされたのではなかった。自らの手で自滅したのだ。
古代人は恐ろしく凶暴で残忍だった。アクハトの御代から何代経ったかははっきりしない。だが星の面積のほとんどを砂に覆われたこの国の民は、強くなるしかなかった。
いくら天霊によって悪魔が滅ぼされたとはいえ、星の自然環境は変わらない。強くなって他者から食料を奪い取り、相手を踏みつけねば自分が生きてゆくことは出来ない。
その気質は科学力が発達し始めても変わらなかった。相手を倒し勝ち残る。戦いが全ての野蛮な種族。いつしか戦いに快楽を感じるようになり、ただひたすら相手をなぎ払い殺すことだけが目的になっていた
それが古代マルドゥーク人。いつの間にか……自分達自身が悪魔となっていたのだ。
王家を継ぐのは強い者。力のある者だった。だから“祭壇の間”に行くには道がふたつに別れているのだ。
候補者が二人、それぞれ左右から入って、あらゆる難関を乗り越え“控えの間”にたどり着く。そしてそこに二人とも生きてたどり着けた時、最後の試練が与えられた。
お互い相手が死ぬまで戦い、勝利する。その勝者こそが国王となるのだった。
相手が身内でも情けをかけてはならない。この掟を破れば二人とも殺されるだけだった。希望者はごまんといるのだから。
古代人達はこの数年に一度の催しに、始祖から受け継いだ深蒼色の瞳をぎらぎらと輝かせて熱中した。
もし後何十年かこの種族が生き残っていたとしたら、おそらく他の星々は、その猛威から逃れる事は出来なかったろう。
マタルの力を利用して宇宙船を作り、外の世界を侵略し尽くしたことだろう。ただ己の快楽の為にのみ。
しかし年月は不思議ないたずらをする。
神殿を守る神官の一人に子供が生まれた。しかしその子は薄い青緑の瞳をしていたのだ。
周りの人間と違うその子供を連れ、神官夫婦は夜半こっそりと街を抜け出し、砂漠へと姿を消した。
そういった子供は何人か同時に生まれたらしく、街でも2~3組の夫婦が姿を消していた。しかし、それは古代人達にとってさしたる問題ではなかった。
そんな文明が長続きするはずがない。戦う相手がいなければ生きていけない種族。
些細なことで隣人と殺し合いになり、それはたちまち街中に拡がる。
…こうしてクイトラ文明は情けないほどあっさりと終焉を迎えた。
その後、何百年か後に、あの夜街を向けだし砂漠へと消えた神官らの子孫がこの地を訪れた。
滅んでしまった先祖達の愚行を二度と繰り返さぬよう戒めとして遺跡をそのまま残し、再び彼らは立ち去った。
自分達の新しい世界へ。ささやかでも、穏やかで平和な新しい文明へ。
「――その子孫が今のマルドゥーク人です。そして今ここにあることを神に感謝し、過去を繰り返さぬよう聖布を頭に巻いているのです。戒めを忘れない為に」
アディルは上体を起し、一同を見渡してさらに続ける。
「フェルカドとティールの瞳は、いわば先祖返りなのでしょう。ただその瞳を持つ者がふたり、選ばれた者と同じように二人揃ってしまった。だから、私も父も、彼の祖父もティ-ルを匿ったのです。フェルカドはその頃すでにクマルヴィの息子として王宮に出入りしていましたから。二人を遭わせてはいけない。古代の血を呼び覚ましてはいけないと……」
「だから……」
ランディは先程の悪寒の意味を理解した。
ティールの蒼い瞳はきらきらと光っていた。それはまるで戦うことが楽しくて仕方がない、殺し合うのが面白くてたまらない、と訴えているかのようだった。
だから寒けがしたのだ。
オスカーの言っていた「アディルやルヴァとは違う。もっと荒々しくて残忍な嫌な気配」というのも多分それだろう。人を生かし育む力を司る守護聖達にとって、己の快楽のみで他者を害する感情に出会えば、なるほど嫌な気分になるだろう。
それまで黙っていたゼフェルはふらりと立ち上がり、皆に背を向ける。マルセルは彼の考えを素早く読み取り慌ててその腕を掴んだ。
「ゼフェル、行っちゃ駄目だよ! ティールは今、ぼくらの知ってるティールじゃないんだから」
「だからほっとけっていうのか? ティールを、フェルカドとおんなじ化けもんにしちまうのかよ」
「ゼフェル……」
「あいつはオレ達とちっともかわらねぇ。ただの子供だ。そいつをたった一人で行かせるのか? オレらを守ろうとしてるあいつを、ひとりぼっちで地獄へ行かせる気か!?」
ゼフェルはマルセルの手を乱暴に振りほどくと、控えの間に向かって走り出した。一瞬躊躇い、ランディも立ち上がって後を追う。
「ランディ!」
「マルセルはそこで待ってろ! 俺はゼフェルとお前を守るって決めたんだから」
「二人とも、待ちなさいっ!」
その叫びは少年達にはもう届かなかった。