?
大石の上を歩いて渡り(なぜ最初の穴にはまらず2番目の穴に入ったかというと、最初の穴に着くまでスピードがありすぎた為、最初の穴にバウンドしてこの穴にはまった、という事らしい。だから音が二度聞えてきたというわけだ。ゴルフでボールが穴の縁に弾かれて外に飛びだしてしまうのと同じ理屈である。)しばらく歩くと急に視界が開けた。
「みなさん! ご無事でよかった!」
「アディル! そちらもみんないるのか!?」
「いえ、オリヴィエ様が……あれ、どうしてオリヴィエ様がそちらから?」
「いろいろあってね。ま、いいじゃない、こうして会えたんだからさ」
どうやらここは控えの間らしい。右と左の通路は本当にどちらも奥に繋がっていたのだ。
つまりどちらの道を選んでも、途中のトラップに引っ掛からないかぎりここにたどり着ける仕組みになっていたというわけだ。
「確かに会えてよかったですけど。二つとも繋がってるなら、最初から一つの道にすればいいんじゃないですか?」
ランディが首を捻ると、天井に高く伸びた四本の大理石の柱の影から低い声が答えた。
「“選ばれし者はふたつ。智、意、力に長けた天霊の子”……ふたりの候補者がそれぞれ分かれて道を進む。途中の罠を全て突破し、最後にここで出会う。そして最後の試練に挑む。どちらが本当の後継者かを決めるわけだ。“始まり、そして終焉の広間”であるここでな」
声の主は柱の影から出てくると、ティールを見つめその深蒼色の目を細めて微かに笑う。
「私の争うべき相手はアディルだと思っていたが……真の後継者が別にいたとはな」
「ティールは関係ない。フェルカド、君の憎むべき相手は皇太子である私だろう?」
「兄上!」
前に踏み出そうとするティールを手で制して、アディルはきゅっと表情を引き締め、
フェルカドの前に立つ。
「テメー、どうやってオレ達より先にここにたどり着いたんだよ」
ゼフェルの問いかけに臆することなくフェルカドは答える。
「私は砂漠の民の血をひいているのだよ。彼らから情報を引きだすなど、いともたやすい。この地に伝わる伝承や罠についての知識など、王宮でその日その日を快楽的に生きる奴等になど考えもつかないような知識を手に入れている」
「だったらなんで先に行かなかったんだ。さっさと王宝を持ってきゃいいだろうが!」
「この先の“祭壇の間”に入るには証が必要だ。砂漠の民と王家の血を引いているという物質的が証がな。それを皇太子殿下にお持ちいただく為に、お待ち申し上げていたというわけだ」
そう言うとフェルカドはアディルの側に歩み寄り、彼に囁きかけた。
「さぁ、イナンナの泪を渡したまえ。お前が後継者でないとわかった以上、無益な殺生はしたくない。可愛い甥っ子を手にかけるなどという愚行を、私に犯させないでくれないか?」
「……出来ない、と言ったら?」
アディルはフェルカドを睨みあげる。フェルカドは視線を後ろでじりじりしているティールに向けた。
「君の兄上は頑固者のようだ。君の方から説得してくれないか?私と争う事がいかに無駄な事かを。王家と砂漠の民、ふたつがひとつになって生まれた私と同じ力を持つ君ならばわかるはずだな。……それとも君が名乗りを上げるか? 私と対等に戦えるのは君だけだ。始祖と同じ、蒼い目を持つ選ばれた少年よ」
ティールの眉がぴくりと動く。少年はゆっくりとジャウンの柄に手をかけようとし、その気配を察したアディルは珍しく大声で怒鳴った。
「ティール! 挑発にのってはいけない!」
アディルがティールに振り返った途端、ぐらりと彼の身体が傾いだ。
その場に頽れ、青い光を放つマタルの結晶をぎゅっと握りしめる。アディルの身体の下から赤い液体がみるみる広がり床を染める。
「アディルっ!」
シルマは我を忘れて走り寄った。慌ててアディルを抱きかかえるとその頬に自分の顔を擦り寄せた。
「アディル、アディル。お願い目を開けて! 私を見て!」
「シルマ……これを、ま、もってくれないか? フェル、カ、ドにわた、さなでくれ」
「だめ、喋らないでっ!」
シルマは側に近寄るフェルカドの気配を感じて、きっ、と彼を睨みあげた。
「シルマ、お前は優秀な部下だった。だからわかるだろう? 私と争えばお前達だけではない、主星から来たお客人達も無事では済まない事を。さぁ、アディルの手からイナンナの泪を取って私にくれないか?」
「……たとえ、たとえ殺されたとしてもお前の言う事などきかぬ。私はマルドゥーク国国王アドアディールが妃、シルマライラ=アッシャムラーアであるからっ!」
シルマがアディルをぎゅっと抱きしめ絶叫した。フェルカドは失望したように息を吐くと、一同が見覚えのある不思議な剣の柄を腰から外した。
「……ジャウン、だ」
マルセルがランディに掴まったまま、震える声で呟く。その声に呼応してフェルカドの握るジャウンの柄からすーっとプラズマ状の青い刃が伸びた。
「残念だ。お前は優秀な部下だったのだがな」
フェルカドが無表情に腕を上げ、一呼吸おくと躊躇わずにシルマとアディルに向けてジャウンを振り降ろした。
肩に光の剣が食い込む激痛を予想して、シルマが思わず目をつむった。が、辺りに響いたのはプラズマが交差する音と、鮮やかに輝く火花だった。
「兄上と義姉上にこれ以上は触れさせない。兄上に手をかけたら、おれが相手をするって伝言させたはずだ」
フェルカドはいつの間にそばに寄ったのかと、少年の俊敏さに一瞬驚く。しかしそれをおくびにも出さずに、にやりと笑った。
「……少年、正式に名前をきいていなかったな」
「ティール……いや、マルドゥーク国王弟、コシャルハシスの娘ナーディアの子、ティシュトリア・ラース。この名を冥土の土産とするがいい!」