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「ゼフェル……?」
ぱっとマルセルが顔を上げると同時に、ランディがもう駆け出し穴の縁に立ち止まって中を覗いた。
「ゼフェル、ティール! 無事だったんだな?」
「あんまり無事とはいえないけどね……」
穴の丁度向こう側の壁に二人の少年はいた。ティールは右手でジャウンを壁に深々と突き立てていて、残った左手でゼフェルの両手を握ったままランディに微笑み返した。
「ゼフェル、おれ右手が放せないから先に上に登ってくれる? そしたら引っぱり上げてよ」
「わかった。んじゃ、ちょーっと蹴飛ばすかもしれねーけど我慢してくれ」
「うん」
ティールはぐっと左手を持ち上げた。いかにゼフェルが小柄とはいえ、男一人を片手で持ち上げるのは大変なはずだ。だが多少手を震わせたものの、ティールはゼフェルの身体をすっと持ち上げたので、ゼフェルはティールの肩に掴まることができた。
その様子にランディは思わずほっと息を吐いたが、改めて怪訝そうに眉をひそめた。
『アディルさんを助けた時といい、クイトラの谷の時といい……ティールって一体、どんな鍛え方したんだろう』
ティールの身体をつたったゼフェルは、すばやく上に上がってきた。穴から出てきたゼフェルの姿が見えた途端、へなへなとルヴァがその場にしゃがみ込んだ。
しかしゼフェルはそんな仲間達には目もくれず、身体を寝かせて穴の中に手を差し伸べる。
「ほら掴まれ。届くか?」
「……ちょっと待って」
下げていた左手をジャウンの柄に添えて、身体を前後に揺らし勢いをつけて鉄棒のようにくるりと前周りをして、身体を上に持ってくる。そして届くようになった左手をゼフェルがしっかりと握ると、ティールは真剣な表情で言った。
「合図をしたらジャウンを抜くから、しっかり握ってて」
「まかせとけ!」
ゼフェルも真剣にこくんとうなずく。ティールもうなずき返すと目をつむった。
「いくよ」
すると穴の壁に刺さりながらも光を放っていたジャウンの刃の部分が、すっと光を失った。と同時にがくん、とゼフェルの腕に少年の体重が全てかかる。
「ぐっ……!!」
ゼフェルが必死で堪えていると、ティールが素早く彼の腕をつたって壁をよじ登る。そのティールを支えたまま、少しずつゼフェルも後ずさった。
「……は~、死ぬかと思った」
さすがにティールも地面に触れた途端、安堵のため息を漏らした。側でゼフェルがハァハァと肩で息をしている。
「オレも。今度ばっかりはさすがにな」
「死ぬかと思ったのはこっちですっ!」
ルヴァの珍しい怒鳴り声に、二人は驚いて顔を見合わせた。
「何か結べるものはないか?」
オスカーは縄の反対側をゼフェルに投げ、巻き付けられるものを探すように指示する。ティールがきょろきょろと探すがなにも見当たらない。そこで彼は先程と同じようにジャウンを伸ばして地面に深く突き刺して、その柄にグルグルと縄を巻き付けた。
「おれとゼフェルで支えてるよ。折れたりは絶対しないから大丈夫」
「なるほど。いいアイデアですね」
そう言うとシルマは自分の長剣をすらりと抜き、勢いをつけて地面に突き刺す。そして同じように柄に縄を巻くとすっとしゃがんで上から剣を押さえつけた。
「皆さん、先に渡ってください」
「しかし、レディを残して先に行くというのは俺の信条に反する行為だ」
「ご心配には及びません、私は身が軽いですから。それに、いざとなったら飛び越えられます」
「だが……」
「ぐずぐずしてんじゃねー。早く先へ行かなきゃなんねーんだぞ、オレらは」
ゼフェルの言う事はもっともだ。オスカーもこれ以上押し問答しても始まらないと悟り、まずマルセルを、次にルヴァを支えて向こう岸に渡らせた。
オリヴィエは以外にも簡単に縄をつたったし、ランディにとってはこれ位朝飯前だった。
シルマは全員が渡り終わるのを確認し、さらに深く剣を地面に差し入れて固定すると、縄をつたわり始めた。
とん、とシルマの足が地面に着くのを確認して、全員がホッと息を吐いた。その様子にやや憤慨したようにシルマが抗議の声を上げる。
「……もしかして私が落ちるとでも思っていらしたんですか? 私はそれ程体重はありません!」