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「っと、こんなとこで悠長に話してる場合じゃない。マルセル、まってな。……ああもう、スイッチどこよ!?」
オリヴィエがもどかしそうに辺りの壁を探り始めると同時に、どんどんと回転した壁を叩く音が聞こえ、ついでマルセルの悲鳴が響いた。
「わーっ! 開けて下さいっ! オリヴィエ様、オスカー様っ!」
「いま助けたげるから! オスカー、私が扉を開けたらあっちに入ってっ! いいねっ!?」
「なんで俺が?」
「つべこべ言うなっ! お子様達を守るのがアンタの務めでしょうが!」
オリヴィエの真剣な表情に、オスカーもすぐに表情を引き締め、壁に近寄ると剣をかまえる。
「いつでもいいぜ、極楽鳥」
「いくよっ!」
オリヴィエがスイッチを押すと、壁がみしっと音を立て回転しだした。
半分開いたかと思うと、転げるようにマルセルがこちらに倒れ込んでくる。それをオリヴィエがすっと抱き留め、すばやくオスカーは向こう側に滑り込む。
「だ、大丈夫ですか? マルセル!?」
ルヴァが駆け寄り心配そうにマルセルの顔を覗き込む。そのルヴァの腕に掴まって、マルセルは2~3回深呼吸をしてから答えた。
「な、なんとか無事です」
「……おい。開けてくれ」
やがて閉じた壁の向こうから、オスカーの低い声が聞こえた。オリヴィエはランディに側に転がる大きめの石を持ってくるように命じた。
「いいね。壁が開いたら、急いで隙間に入れるんだよ」
「はい」
スイッチが三度押され、ごうん、と音がして壁が回転する。
半分開いたところで、ランディは素早く石を転がし入れて留め具の代わりにする。壁は半分開いた状態でみしり、と音を立てて回転を止めた。
その石を跨いでオスカーがこちら側に無言で戻る。たいして息も切らせていない様子にひゅうとオリヴィエは口笛を吹いた。
「さっすが、強さの守護聖。ごくろーさん」
「……なにやったんだ、お前は」
「失礼な、私がそんなドジするわけないだろ。チャーリーの馬鹿が、スイッチ押しちゃったんだよ。そしたら、わらわらと……」
ランディは石をもう一度しっかり押し込んで、身体を起こし向こう側をちらりと覗き込んでぎょっとした。
そこには、今オスカーによって切られたばかりのゾンビの様な物体が四体転がっていた。
「――で、チャーリが離れた途端、周りの壁が開いてこいつらがぞろぞろ出てきたって訳。あー、思いだしてもぞっとする。まぁ救いは塞がれてた通路の壁も一緒に開いたって事なんだけどさ」
開かれた通路をゾンビに追いかけられ、オリヴィエ達は奥へ奥へと逃げ出した。
途中で幾つか分かれ道があったせいで、一人、また一人と逸れてしまい、いつの間にかオリヴィエは一人で走っていた。
「もーっ! しつこいねぇ。だからこんなとこ来たくなかったんだっ!」
愚痴を言っても始まらない。再び目の前に分かれ道が見えると、オリヴィエは左側に素早く滑り込んだ。が、そこは行き止まりで、目の前には壁があるばかりだ。
「なんなのさっ、もう!」
壁に寄り掛かって素早くくるりと向きをかえる。化け物が入ってくるであろう入り口をにらみ据え、懐に腕を入れ、短剣の柄をぎゅっと握った。
「汚いものに触りたくないけど、この際仕方がないね。さぁ、どっからでもかかってきな!」
と気合いを入れて身構えた途端、寄り掛かった壁が回転した。
「な、なに!?」
パタンと壁が閉じると、目の前にぼけーっと自分を見つめるルヴァがいた。
「じゃあ、他のみんながどこに行ったのかわからないんですか?」
「追っかけられてたから、人の事を気にしてる余裕がなくてね。まぁ、みんな大人だし、大丈夫だよ」
『その大人が、最初にトラップに引っ掛かってどうするんだよ……』
左側通路チーム全員の頭に、同じ思いが同時に浮かんだ。
「ばっかじゃねーの。人の事ガキ扱いしといてそのザマかよ」
「過信は命取りだって、聞いた事があります。オリヴィエ様達の油断と過信が、今回の事態を引き起こしたんじゃないですか?」
「……おーおー、いっちょ前に言ってくれるじゃない、坊や達」
日頃子供扱いされる恨みを今こそ晴らそう、と思っているのか、ランディはきっと顔を上げ、オリヴィエを真っ直ぐに見つめた。
「ちゃかさないで下さい。アディルさんに何かあったらどう責任を取るんですか?」
ランディはぐっと拳を握りしめ、ぎゅっと目をつぶって肩を震わせる。
「俺達が何の為にここにこうしているのか、みんなきちんと覚えていますか? アディルさんを無事に祭壇の間に連れていって、アクハトの弓を手に入れる事。フェルカドより先に手に入れて正当な継承者として国民の前に出て行く事。じゃないと、宇宙全体の資源にも大変なダメージを与えるんですよ? ……なのに、みんなお祭り気分でっ!」
ランディは熱血のあまり、震わせていた拳で側の壁をおもいきり殴った。
「……ランディ……あの」
「なんですか?」
「……そこ、スイッチがありますよ」
「……え?」
ルヴァののんびりした答えに、ランディもつられてゆっくりと視線を自分の拳の先に向ける。
彼の手は、しっかり壁の出っ張りを叩きつけていた。