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右側の通路を進むアディル達は考え込んでいた。というより動けなかった。
「絶対動くなよ、チャーリー。今、解除の方法を探すから」
「たのむわ~。早いトコ何とかしてくれ~!」
チャーリーは祈るような格好で、壁に寄り掛かって半分泣きそうな声をあげた。
右の通路を進んでしばらく行くと、行く手が壁でふさがれていた
。どうやら道を間違えたのか、と皆が引き換えそうとした時、ジャバルが壁に掘られた記号のような物を見つけたのだ。
アディルとオリヴィエが顔を寄せるように覗き込み、ヴィクトールがその周辺の壁を用心深く調べる。
「はぁ……俺には手伝えることがあらへんわ」
チャーリーがホッとため息をついて、とん、と側の壁に寄り掛かった時。
カチッ。
何かが押される音が洞窟内に響く。一瞬皆が顔を見合わせ、そのまま無言でゆっくりと音のした方へ視線を向けた。
そこには壁に寄り掛かって、申し訳なさそうに立ち尽くすウォングループの総裁がいた。
「……俺、なんか押してもーたみたいですわ」
オリヴィエがあからさまに顔をしかめて、辺りの壁を探り、穴を見つけては覗き込みながらぶつくさとぼやいている。
「まったく。アンタどこまで人に迷惑かけたら気が済むのさ。こらっ、身体動かすんじゃないっ!」
「そ、そないな事言われても……」
チャーリーは足元がむずむずしたのを感じて、恐る恐る視線を自分の足元に落とした。嫌な予感は的中していた。こういう場面ではご多分にもれず、足元には何やら怪しげな虫がうじゃうじゃと蠢いている。毒虫なのかそうでないのかそれはわからない。だが普通の状態ではまず滅多にお目にかかれない珍種ばかりだ。チャーリーがふっと意識を失いかけ、身体がくらりと倒れそうになるのをジャバルは慌てて抱きかかえた。
「しっかりして下さい、社長さんっ!」
「もーあかん、限界や……。俺は都会のボンボンやで? こないな環境絶えられへん」
「倒れるんだったら解除の方法見つけてからにしてよね。アンタのとばっちりで、変なトラップに巻き込まれるのはゴメンだよ」
「そない殺生なこと言わんといてください、オリヴィエ様ぁ!」
「何が起きるかわからないから厄介ですね。いっその事、チャーリーさんに動いていただいて何が起きるか確かめてみましょうか?」
「ひーっ! 真面目な顔して、さらっとおっそろしー事言わんといてっ!」
チャーリーが思わず突っ込みの体勢を取った。ジャバルが慌てて彼を押さえたが時すでに遅し。チャーリーの身体はしっかり壁から離れていた。
「あ……離れてもうた」
左側の通路に進んだ通称「お子様チーム」は、順調なすべり出しだった。
ルヴァは、はやる子供達に、なるべく壁や床に不必要に触らないこと、単独行動をせずに固まって移動することをかんで含めるように説明した。
「どんな仕掛けがあるかわからないですからねぇ。こういう遺跡にはね、時々あるんですよ。泥棒除けのトラップが。でも心配はいりません。おかしいな~と思ったところを触ったり、寄り掛かったりしなければ大丈夫ですからね」
「やはりルヴァについて来てもらって正解だったな。案外オリヴィエ達は何かの罠にはまってるかもしれないぜ」
「オリヴィエは大丈夫ですよ。それにヴィクトールやアディルもついていますし。あちらはみんな大人ですからね」
その時、ごうん、と奇妙な音が聞こえて、一行はぴたりと足を止めた。しばらく耳を澄ませていたが、しんと静まり返ってもう何も聞えない。
「……空耳か?」
「全員に聞える空耳なんて、変じゃねぇ?」
しばらく立ち止まって様子をうかがうが、何も起こる気配がないので前に進むことにした。
やがて右側チームと同じように先に進めなくなった。行く手がぽっかりと口を開けていたのだ。
地面の裂け目とでも表現できそうなその亀裂は、幅が4~5メートルはあろうか、とてもジャンプして渡れる幅ではない。
ゼフェルがそっとなかを覗き込むと足元の小石がカランカランと音を立てて落ちてゆく。耳をすませたが、地面に落ちたらしい音が聞こえなかった。
その裂け目は道の先を見ると数メートル先にも、もうひとつ見えた。おそらく同じ位の幅と深さを持っているのだろう。
「こっちの道じゃなかったんじゃねーか」
「引き返すか?」
「そうですね。もしかしたら分岐点があったのを見落としたのかもしれませんから」
今度は壁の両側に二手に分かれてじっくりと観察しながら、もと来た道を引き返す。
「あ、ルヴァ様。ここに何かありますよ。スイッチかな?」
マルセルが見ていた壁に怪しい出っ張りを見つけて、彼はすっと手を伸ばした。
「わ、マルセルっ! 不用意に触ってはいけませんっ!」
「え?」
と振り向いたが、マルセルはもうしっかりその出っ張りを押していた。
途端に壁がぱたんと開き、その扉にマルセルは吸い込まれて回転する。
「マ、マルセ……オリヴィエ……なぜここに」
「……それはこっちが聞きたいよ」
回転した壁はマルセルと入れ替わりに、右側の道を進んだオリヴィエをこちらに招き入れていた。