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「ヴィクトールさん……ありがとう、お借りします。必ず無事に返しますから」
ランディは鞘を目の前に掲げて、真剣な眼差しでヴィクトールを見つめた。ヴィクトールがそれに答えて軽く微笑む。
その横では、オスカーに渡しそびれた銃の所持に困ったジャバルが、皆の顔を交互に見比べていた。ゼフェルはその側に行くと、彼の手からひょいとその銃を取り上げた。
「オレはこっちの方が好みだな。これ借りてっていいか?」
「ゼフェルっ! いけません、暴発したらどうするんですかっ!」
そう言うとルヴァはばっと、ゼフェルの手から銃を奪い取ると、再びジャバルに押し返した。
「何すんだよ。暴発なんてすっかよ」
「とにかく危険ですっ。子供の持つ物ではありません」
「誰が子供だぁ!?」
「そうだよ、ゼフェル。危ないよ、銃なんて」
「あのなぁ、もっと危ねーかもしれないトコ行くんだぜ?」
「騒ぐな、おまえら!」
アディルはくすっと軽く笑ったが、まだ下を向いたままの弟を見て顔を曇らせた。ふと自分の隣でジッと見上げてくるシルマの視線に気付き、ふっと苦笑を返した。
「シルマ、また君に頼ってもいいかな?」
「あなたに頼ってもらえるなんて光栄だわ。……でも約束、必ず無事に私の処へ帰ってきて」
「約束する。そして今度帰ってきたら、二度と君の側を離れない……未来の皇后陛下の側をね」
「絶対ですよ、国王陛下」
シルマはいたずらっぽく微笑みアディルの側を離れると、羽織ったマントをふわりと翻してティールの側に立った。
「私も左に参ります。皇太子殿下、どうぞご無事で。皆さん、殿下をよろしくお願いします」
アディルは弟をもう一度振り返り、ややあってそれを吹っ切るように頭を振ると、右の通路に進み出した。
オリヴィエがちらりとこちらを見て、やれやれと肩をすくめるとこれも右へ。
チャーリーがオリヴィエをまねて、立ち止まりやれやれと肩をすくめていると、ヴィクトールが後ろから彼を通路に押し込んだ。
ヴィクトールが軽い会釈をオスカーに送り、押し込んだチャーリーの後に続く。最後にジャバルが銃を肩にかけ直して、慌ててヴィクトールの後を追いかけた。
「さて――それじゃ、こちらも行くとするか」
「はい。俺、先行しますっ!」
「おい坊や、慌てるな!」
しかし、オスカーの声はランディには届かなかった。ランディはあっという間に駆け出しその姿はどんどん小さくなっていった。
「あ、ランディ~! もー、ボクらを守ってくれるんじゃなかったの~?」
マルセルとルヴァが、慌てて左の通路の中に入る。
「おまえらっ! 勝手な行動をとるなーっ!」
オスカーの叫びはまたも無視され、洞窟のような通路にむなしく響いた。渋面を作ったまま、オスカーも後に続く。
「我々も行きましょう」
シルマは含み笑いをした後、きゅっと表情を引き締め、正面を睨んで呟いた。
「……行こうぜ、ティール。こっちのグループのリーダーはおめーなんだから」
ゼフェルは歩き出そうとしないティールの側によると、微かに震わせている肩に手をかける。
するとびくっと身体を震わせたティールの足元に、ぽたぽたっと水滴が落ちて床にあっという間にしみ込んでいく。
「……してあんな言い方すんだよ」
「ティール……?」
「おれは……兄上がいればいいんだ。兄上が言う事なら何だってきく。……人を殺せって言うんなら殺せるし、おれに死ねっていうんなら何時だっておれは……」
「ティール、もういいって」
ばっと顔を上げると、ボロボロ涙が溢れるのもかまわず、ティールはおもいきり叫んだ。
「私の為に死んでくれって、どうして言ってくれないんだよ!? 私を守って死んでくれって! そしたら、おれ、いつだって喜んでこんな命、兄上にあげるのにっ!」
次の瞬間、ぱしっ!っと頬を叩かれ、ティールははっと息を飲んで我に返る。
「今度んな事言ってみろ! こんなもんじゃすまさねー! 立ち上がれねー位ぼこぼこにしてやるからなっ!」
「……ゼフェル様」
シルマも驚いて息を飲んだ。いかに妾腹とはいえ、第二皇子の頬を張り飛ばすなど彼女には信じられない行為だが、なんといっても相手は守護聖だ。やみくもに止める事も出来なかった。
「わかってねーのはお前の方だろ? アディルがどれだけおまえの事心配してんのか、全然わかっちゃいねーよ」
「心配……してる?」
「あーそうだよ。ったく、ルヴァといいアディルといい、この星の人間はなんで不器用なんだ。持って回った言い方すっから、こういう風に誤解する馬鹿がいんだよ」
ゼフェルはそう言うと、ふて腐れたようにぷいっと横を向いた。
そんな彼の様子を横目で見ながら、シルマはティールの正面に立ち、腰をかがめて少年と視線を合わせる。
「私を君の側に残した事が何よりの証拠だとは思わないかい、ティール?」
「シルマ……」
「彼は私に約束したの。必ず帰るから、君はティールを守ってくれって。それが本心だとわかったから、私は君と行こうと思った。君を守って彼と再会しようって。そうでなければ、何をおいてもアディルと同じ道を進んでいるよ。……だから彼は帰ってくる、必ず。私と君のもとへ」
「おれと……シルマの?」
「そうだよ。アディルは誰よりも君を愛し、君の行く末を案じている。ちょっと妬けるくらいにね」
シルマは軽くウインクすると、ティールの涙を指で拭ってやった。ティールは頬を赤らめ、照れ臭そうに顔をしかめてすっと横を向く。
「いいよ、シルマ。自分で拭けるから。おれはこんなトコで泣いてられないんだった。兄上のかわりにシルマを守んなきゃなんないし」
「私を?」
「そうだよ。兄上の大事な人を守れなきゃ、兄上に合わす顔がないもん。おれが君を守って無事に祭壇の間に連れてく。そして二人で兄上と会うんだ」
ティールはごしごしと顔を手で擦ると、にこりと破顔し走り出した。
「ほら、ぐずぐずしてると置いてくよ? ゼフェルも早くっ!」
「な!? おめーが落ち込んでたからおいてけぼりくったんだろーが!」
「だから早く行こうって言ってるじゃんか!」
シルマはくすっと笑うと、じゃれあう二人の少年に続いて奥へと進んでいった。