? Guys and Dolls

蒼天幻想

第六章(12)

「さ、アディル。とりあえず女神像を調べてみることにしよう」

ヴィクトールはジャバルを呼ぶと、アディルの肩を叩いてすたすたと祭壇に近づき、女神像を調べ始めた。

「あの…いいんですか? 守護聖様方を放っておいても」

「ああ。あれはあの方々のコミニュケーション手段だ。気にせんほうがいい。付き合ってると日が暮れてしまうからな」

「はあ……」

皆がわいわい騒いでいる間、ヴィクトールは丹念に女神像を調べてみたが、ヒントになる様な文字も刻まれていないし、どこかの鍵が埋め込まれているような形跡もない。

これはもしかしてルヴァが壊してしまった頭部に何らかの文字なり記号なりが書かれていたのでは、と思い始めた時、シルマがそっと女神像に手を添えてつぶやいた。

「もしかして女神本体に何かが書かれているのではなく、女神像の存在そのものが何かを指し示しているのではないでしょうか? 地霊の想いは大地に溶けて総てを導く。女神の思い、女神の心。心や魂は胸に宿ると言います、胸とはすなわち人の心臓。つまり女神の左側、そこにある何かが大地に溶ける、という事は……」

シルマは女神像の足元からすっと手を下に滑らせる。祭壇の側面を伝い、床に手を置きしゃがみ込んでジッと動かない。

「……どうやら正解のようですよ。こちらに手を翳してみて下さい」

アディルとヴィクトールがシルマのすぐ近くに手を伸ばした。すると微かだが、空気が床下から吹き上げてくるのがわかった。

「空気が流れている。なんにせよこの下に空洞がある事は確かのようだな」

「おそらく」

「大したものだなシルマ。君のように優秀な兵士を失って、さぞかし親衛隊長殿は歯がみをして悔しがっていると思うぞ」

「実はヒントを少し頂いたんです。オスカー様が“熱いハート”とおっしゃっているのが聞えたもので……」

シルマは頬を微かに染めて微笑んだ。その彼女の答えと笑顔につられて、アディルとヴィクトールは苦笑いを浮かべた。ジャバルだけが、どう反応していいのかわからず目を白黒させていた。

「ちょーっとアンタ達! 私達を無視してさっさとシリアス路線を進んでくんじゃないよっ!」

「いや、そんなつもりはありませんが。それより、入り口が見つかりましたよ」

というとヴィクトールは皆に数歩下がるように手で合図を送り、肩に掛けたライフルを降ろしてかまえ、床の一角に勢いよく2~3発打ち込んだ。

床に空いた穴にシルマは素早く手を差し込み、ゆっくりと持ち上げる。ぽっかりと空いたその穴の中には、暗闇へと続く石の階段があった。

 

「ルヴァ、あのさ……」

みんなが次々と石段を降りてゆく後ろで、ゼフェルはルヴァの腕をひっぱり照れ臭そうに頬を掻いた。

言いたくないけどどうしても伝えたい、でも照れ臭い。そんな時いつもしてしまうゼフェルの癖だ。ルヴァは、つい自分の頬が緩んでしまうのがわかった。

「ゼフェル……私はね、父を認めたくなかったんですよ」

「あ?」

「私や弟や母を顧みずに研究に没頭してしまう父をね、許せなかったんです。聖地に召される時にも父は見送ってさえくれなかった。弟には、精一杯強がりを言って父を許した振りをしていたんです。…でも本当は、父を一番嫌悪していたのは私だったんですよ。そして、その父にだんだん似てくる自分自身も嫌っていたのかもしれません。…その私が、あなたの保護者だなんておこがましいですよね?」

最初はルヴァが突然何を言い出したのか分からず、きょとんとしていたゼフェルだったが、段々と目が据わってくる。すぐに怒ったり怒鳴ったりしてしまうのでつい見落とされがちだが、この少年は人の心の動きに人一倍敏感で、鋭い感性を持っている。

「……今はどうなんだよ」

「え?」

「今も、あの書き置きを読んだ今もそーなのか? オレにはなに書いてあんのかちっともわかんねーけど、親父さん、あんたに一番言いたかった言葉を残したんじゃねーのか?研究者にとって研究対象ってのは、命の次に大事なもんなんじゃねーのか?それに傷をつけてまで残したメッセージなんだぜ……あんたが大事だったからだろ、ルヴァ。ほんとの気持をあんたに知って欲しかったんだろ、きっと。……そんな親父さんが今でも許せねーのか?」

「……ゼフェル」

「オレは馬鹿だから、むずかしー事はわかんねーよ。でもルヴァ、あんたと親父さん、よく似てるんじゃないのか? とろくって、どんくさくって、みょーに悟りきってて。知識はある癖にそれを他人にうまく伝えられね~でおたおたしてる。……そっくりじゃねーか。まぁ、だからよけーにいやんなるってのも分かるけどよ」

ルヴァは目を細めてゼフェルを見つめる。

この子はわかっているのだろうか? その言葉がそっくりそのまま自分にも当てはまる事を。

にこにこと自分を見下ろすルヴァの視線に気づいて、ゼフェルはたちまちむっと口を噤む。

「……なんだよ、きーてんのかよ?」

「ええ、ちゃんと聞いていますよ。でもね、ゼフェル。私も不器用ですけど、あなたも相当ですよ」

「んだと~っ! オレのどこが不器用だってんだよっ! オレは鋼の守護聖だぞっ!!」

「手先の問題じゃありませんよ。ほらそうやってすぐに怒りだすし……」

「おめーがよけーな事言うからだろっ! せっかく人がガラにもなく貴重なアドバイスしてやってるってのに……もーいい。オレはもうしらねー! おめーなんか悩んでどん底まで落ちちまえっ!」

「あ、走ると危ないですよ~! 足元に気をつけてゆっくりと降りないと…」

「るせっ! 人の心配よりてめーの心配してろっ!」

ドカドカと足音高くゼフェルが降りてゆくのを、やれやれと肩をすくめながらルヴァは見送った。そして、父の書き置きが残された壁を振り返って苦笑した。

「……親の心子不知。あなたもこんな思いでいたんでしょうか? だとしたら因果応報、これは私に与えられた試練なのかもしれませんね。……頑張ってみますよ、父さん」

 

“ルヴァ、よく帰ってきた。

私たちは、おまえの家族は、もう生きてはいないかもしれない。

だが、その心と思いは、この星の大地となっておまえを迎えるだろう。たとえ何百年、何千年経っていたとしても、こう言っておまえを迎えることだろう。

――お帰り、大切な息子よ。”