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その近くの壁を手で擦りながら探していたアディルは、あっと声をあげた。
「見て下さい、ここにもルーケンさんのサインと……」
シルマがそこに掘り込まれた文字を読み上げた。それは謎かけのような言葉だった。
『――地霊の想いは大地に溶けて、すべてを導く。始まり、そして終焉の広間に。女神の泪と共に触れたる時、かの地を癒し民を救う……』
「――この“始まり、そして終焉の広間”というのは、もしかして祭壇の間のことではないでしょうか?」
アディルの答えに一同は言葉に詰まった。こういう謎かけだとか言葉遊びはどうも苦手だという者ばかりしかそこにはいない。
唯一そういった分野が得意なルヴァは、父親の書き置きをジッと見据えたまま動こうとしない。
「兄上。おれ、聞いた事があるよ、その言葉」
「え?」
ティールは振り向いた全員の視線を受けて、ゆっくりと詠唱する。
「――神の神殿、天の意思。地霊の想いは大地に溶けて総てを導く。始まり、そして終焉の広間に。選ばれし者はふたつ。智、意、力に長けた天霊の子。女神の泪と共に触れたる時、天地和合の力を以て、かの地を癒し民を救う」
「ティール、それをどこで……?」
「小さい頃、じいちゃんが教えてくれた。砂漠の民ならこれは知っとかなきゃいけないって。でも他の人には言っちゃ駄目だって」
「砂漠の民は……たしかコシャルハシスだった者の末裔でしたよね?」
いつの間にかルヴァがティールの後ろに立っていた。ティールの肩に手を置き、彼ににっこりと微笑む。
「よく思いだしてくれましたね。これで少し謎が解けましたよ。私の父は遺跡の発掘を生業としていました。いわゆる考古学者で、主にこのクイトラ文明の研究をしていたんです。当然伝説の王宝の事についても調べていましたから、どこからかこの口伝を調べ、ここに刻んだのでしょう。でもそれだけでは宝を手に入れる事は出来なかった。何かが足りなかったんですよ。その何かとは、アディル、あなたの持つそのマタルの結晶。それはさすがに国王陛下から借りるわけにはいかないですからねぇ。つまりこれは古代人の二重の防衛策だったのでしょうね」
「防衛策?」
「ええ。王家はアクハトの長子の末裔。こちらには“イナンナの泪”を。そして砂漠の民“コシャルハシス”はアクハトの末子の末裔。こちらには口伝を。それぞれひとつずつ与える事で、お互い協力しなければ“アクハトの弓”を手に入れる事が出来ないようにしたのでしょう」
「また随分と面倒くさいことをしたもんだ」
「そうですね。でも、だからこそフェルカドは行動を起したんですよ。それだけ厳重に守られているという事は、とりもなおさず伝説が真実だったという事に他なりませんから」
「しかしなぁ。その口伝がわかったって謎解きは終わっちゃいないんだぜ?“地霊の想いは大地に溶けて総てを導く。始まり、そして終焉の広間に。”と言われても、そもそも入り口すらわからないんだからな」
「地霊って幽霊とはちゃうんですか? 俺、そういうの苦手ですねん」
「ここまでついて来といて、今更なに言ってんだよ」
「やっぱユーレーなんですかねぇ? ううっ、くわばらくわばら!」
「えーぼくも苦手だよぅ、ゼフェルぅ!」
「くっつくなって! うっとーしーな、おめーら!!」
ゼフェルがまとわりつくチャーリーとマルセルを引きはがしている横で、ランディはうーんとうなりながら腕を組んだ。
「地霊って……女神イナンナの事だよね、ティール?」
「そうだよ」
「ルヴァ様、あの女神像」
「え、ああ、あの首のとれた……」
「そうです。ルヴァ様が落っことして粉々にしちゃった……ってまた俺、余計な事言っちゃってますね、ごめんなさい……」
「あはは。いいんですよ、ランディ。ほんとの事ですから」
「あ、そうか! ランディ、アンタ冴えてるじゃない!」
「おい。一人で納得するなよ」
「もー、オスカーってばまだわかんないのかい? 坊やより鈍いじゃないの。いいかい、入り口はここにある事は間違いないんだ。で、この神殿の中で女神様って言ったらあの祭壇に鎮座なさってる首なしの美女しかいないだろ」
「あのですね、元々首なしだったわけではなくてですね。私が見たところ約5~600年前に地殻変動の地震などで古くなっていた上に細くなった首の結合部分が……」
「あー、わかったわかった。この際それはどうでもいいんだ。重要なのは、あの美女が私達を導いてくれるかどうかってだけなんだよ」
「安心しろ、オリヴィエ。たとえどんな女性だろうが、過去に一度として俺を無視できたレディなど一人もいやしない」
「それも聞いてないし。だいたい、今回の美女はアンタ至上最高に手ごわい相手だろ。なんたってご自慢の“熱い眼差し”が通じないんだから」
「俺はそれだけの男じゃない。“熱いハート”があるからこそ、あまたの女性は俺の虜になるんだからな」
「……ほんとにバカだね、アンタ」