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薄い砂地を奥へと進む。途中、崖が両脇から迫って来るかと思われるほどの細い道になった。一行が一列になって慎重にそこを抜けると、程なくして視界がパッと開けた。
「……すげー」
ゼフェルは思わず声を漏らす。彼の目の前には、天高くそびえ立つ二本の石柱があった。
それは丁度細い道を抜けたすぐ前にあり、遠方からの旅人を迎える入り口の様な役目を果たしている。柱の下から奥に向かって石畳の道が続いている。両脇に石造りの家や、以前は水を湛えていたであろう噴水の名残がある。石の道は四方へと伸び、かつてこの街で人々が生活していた事がよくわかった。
そして道の終わり、突き当たりに谷の壁を背にして、他の建物とは比べ物にならない程大きくて荘厳な建築物があった。
古の文明、マルドゥークの始まり。その中心とも言える建物、天霊の神殿が。
神殿はただそこに存在していた。はるか昔から当たり前であるかのように。
ルヴァは静かに神殿を見つめる。彼の中にまるでつい昨日の事のように、ありありと思い出が蘇ってきた。
「――今も昔もここは変わらない。そしてこれからも変わる事はないでしょうね」
ゼフェルは物思いにふけるルヴァを見上げて不思議そうに問いかけた。
「どうしたんだよ、ルヴァ。ここで何かあったのか?」
「――ここには過去があるんですよ。この星の、そして私の過去が……」
「あんたの、過去?」
ゼフェルが再び問いかけたが、ルヴァは今度は答えなかった。
「――よろしいのですか? 息子さん、今日聖地に召されるのでしょう? せめて最後のお別れなりしなくても」
「三日前に会った。その時にもう話もした」
「それでも……」
若い研究員が心配そうに声をかけると、男は振り向き工具箱を指差した。
「そのシャベルを取ってくれ。…もう少しでこの、石がはずれ、そうなんだ」
右手を遺跡の穴に突っ込んだまま顔をしかめる。研究員はもう何を言っても無駄だと悟り、軽いため息と共に小さなシャベルを男に渡した。
「……なに、あいつは頭のいい子だ。一人でだって十分やっていける。私のような道楽な父親がいないほうがよっぽど、な」
「え?」
「――独り言だよ。よし、もう少しだ」
「父さんひどいよ。こんな時に、何も遺跡に行かなくたっていいじゃないか!」
憤慨する幼い弟の頭を、ルヴァは優しく撫でた。
「仕事だから仕方がないでしょう? それに三日前にちゃんと挨拶できたし」
「お兄ちゃんは優しすぎるよ! もっと怒らなきゃあの人はわかんないんだから!」
「駄目ですよ。自分の父親を“あの人”だなんて」
穏やかに諭す兄に向かって、弟は呆れたような視線を返しはーっと大人びたため息をついた。
「……やめた。ボク一人が怒って肝心のお兄ちゃんが何とも思ってないんだもん。なんかボクが馬鹿みたいじゃないか」
「私の代わりに怒ってくれてるんでしょう?その気持だけで十分ですよ」
いつもと変わらない兄を見上げ、弟は微笑んだ。が、すぐにじわーっとその目に涙が浮かび、兄の服をぎゅっと掴んで、顔を埋めた。
「……やっぱりヤダよぉぅ。行かないでよ、お兄ちゃぁん」
「そんな事言わないで、ね。ちゃんとわかってくれたはずでしょう?」
肩を震わせる弟の髪を指でそっと梳いてやる。さらさらとした子供特有のその柔らかさに、ルヴァも胸が締めつけられ、必死で涙を堪えた。しばらくただ黙って抱きあっていた兄弟は、弟の微かな身じろぎで身体を放す。
「……ごめんなさい。こんな事、ボクが言ったらお兄ちゃんが困るだけだよね。大丈夫、もう泣かない。お兄ちゃんはすごい人になるんだもん。宇宙を支える守護聖さまになるんだから」
「ええ……」
弟はごしごしと両手で自分の目を拭うと、その真っ赤な目で照れ臭そうに微笑む。
「お兄ちゃんを困らせるのは、父さんだけで充分だよね」
ルヴァもなんとなく困ったように優しく微笑み返した。
考古学が好きだった父。
家族よりも遺跡や発掘物を愛した父。
息子との最後の別れよりも過去の文明を取った父。
自分が人とよりも物とのコミニュケーションを好むのは、そんな父の血を引いているからかもしれない。だから自分は、父を非難する事はできない。認めることも出来ないかわりに……。
ルヴァは黙っていた。黙って一人でそう思い続けた。遠ざかる故郷の星を宇宙艇の窓から眺めながら。