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「さ、ってと……」
オリヴィエは飛行艇に戻ると、側でにこにこと立っているチャーリーの様子に軽くため息をついた。
「……負けたよ。アンタのその要領の良さには。早く乗んなさいよ」
「よかったわ、歩けーって言われたらどないしょって思ってましたんや」
「シルマ、アンタも早く乗んなさい」
「あ、はい」
攻防戦を目の当たりにして眼を点にして立ち尽くすシルマに声をかけ、オリヴィエはやれやれと助手席に乗り込んだ。
「……おまえ、そこに座るのか?」
「今度はなに?」
オリヴィエが多少けんか腰に答えると、オスカーは正面を向いたまま低い声で応戦する。
「後ろに行け」
「どこに座ろうと私の勝手じゃない。あ、シルマ、アンタの席はそこ。ルヴァの隣の後ろの席だよ」
“後ろの席”をことさら協調してオリヴィエは発音し、オスカーににっこりと微笑みかける。
「さ、早く出発してよね。運転手さん!」
「――なぁティール、ちょっと訊きたいんだけど。昨日アディルさんが見せくれた……えーと」
「イナンナの泪」
「そう、それっ! と、君の持ってるその武器……何てったっけ?」
「ジャウン。いい加減覚えろよ、脳ミソあるんだろ?」
ランディは一生懸命ティールに話しかけているのだが、一緒に谷を降りるマルセルとゼフェルが呆れたように交互に答えるのを聴いて少しムッとする。
「うるさいなぁ、二人とも。俺はティールに聞いてるんだよ」
普段と変わらぬ3人のやり取りは、ティールには微笑ましい光景に思えたのだろう。軽く忍び笑いをするとランディを振り返った。
「で、なにが訊きたいの?」
「俺達が聖地で見たマタルの結晶は、虹色に光って真ん中が白かったんだ。でも、昨日見たマタルは蒼く透き通ってた。この二つが同じ物とはどうしても思えないんだ」
「ああ。マタルは結晶化させて使うのは知ってるよね? 純度が低いと濁って虹色になるんだけど、完全に結晶化させたものは蒼くなるんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「そして“イナンナの泪”やジャウンについてる力を引きだす為のマタルは、純度100%だから蒼い。純粋な証だよ」
ティールは、突き出した岩に手を掛け足場を確認しながら器用に崖を下ってゆく。
採掘場と比べて、クイトラの谷は比較的緩やかに地面に繋がっている。だがそれは垂直でないというだけで、切り立った崖であることに変わりはなかった。そこを淡々と話しながら降りれるという事は、このティールという少年、ただの子供とは思われない。
マルセルとゼフェルは極力口数を減らして足元と指先に神経を集中しようとしていた。しかし聖地一の冒険野郎、ロッククライマーのランディはティールの後を比較的簡単について行った。
「でも……マタルの100%の結晶化って、今の科学力じゃ不可能だって聞いたんだけど」
「うん。今のおれたちの技術力じゃ無理だって、じいちゃんも言ってた。でも昔の人は出来たんだって」
「昔の人?」
「ずっと前に滅んだ、古代文明時代の人達の事。アクハトの血を純粋に受け継いだ、直系の人達がいたんだって。その人達はこの先の王家の墓がある場所に街を作って暮らしてたんだ。ジャウンに埋め込まれてる石は、そこから掘り出したんだって」
ふーん、とランディは感心すると、思いだしたように後ろを振り向いた。そしてかなり差がついてしまったマルセルとゼフェルを見上げ、大声で叫んだ。
「なんだ、二人ともだらしないなぁ。まだ半分も降りてないんだぞ」
「……あいつ、もう守護聖やめろよ」
「……笑わせないでよ、ゼフェル。ぼく、本当に危ないんだから」
「おめーが意地張って自分で降りる、なんて言うから悪いんだぞ。ったく、おかげでオレまでこのザマだ」
「ゴメンね。また迷惑かけちゃって」
「ば、馬鹿っ! 手ぇ離すなっ!」
マルセルがゼフェルに頭を下げようとして、掴まっていた岩をついうっかり放してしまった。
わわわと両手を振り回し、ゼフェルが伸ばした手を慌てて掴む。しかしゼフェルも決して安定していた訳ではないから、バランスを崩して今度は二人で大騒ぎしているところを、誰かがぐいっと抱き留めてくれた。
「大丈夫かい? さ、私に掴まるといい」