? Guys and Dolls

蒼天幻想

第六章(4)

「そういえば、肝心なことをもうひとつ聞き忘れてたよ」

朝の日差しを避けるように歩いていたオリヴィエは、ふと何かを思いだしチャーリーの肩に自分の肘を器用に乗せた。

「あの……重いんやけど、オリヴィエ様」

「アンタの部下のウェルナーって言ったっけ? なんであの人、アディルの事匿ってたのさ。昨夜、彼に事情徴収したんでしょ?」

「はぁ、まぁ……。お教えするほどの事でもあらへんのやけど。言ってみれば義をみてせざるは、っちゅう奴で」

「はぁ?」

「皇太子さんが採掘場を視察中にこの騒ぎが起きて、シルマさんが駆け込んできたそうなんですわ。事情を聴いてみたら、こらえらい事ですやろ? で、王家の皆さんには日頃からお世話になっているし、ここで助けねば男がすたるって思うたらしいです。侠気に溢れた行動やと、我が社員ながら感激しましたわ。ええ話やと思いまへん?」

「……どうしてアンタの会社の連中って余計な事に首突っ込みたがるの。普通この星で自分達のおかれた立場を考えたら、迂闊に行動できないでしょうが。…まぁ、社長からしてこれだから仕方ないか」

オリヴィエは今さらながら、自分の周りにはまともな奴が一人もいないのだと実感した。

 

採掘場には反重力飛行艇が一隻しかなかったので(昨日のゴタゴタで壊されてしまっていた)王家の谷まで歩くことにしたのだったが、これが5~6キロも離れた場所にあったなら、おそらく全員干からびていた事だろう。

直線距離にして2キロ程、歩けない距離ではなかった。

ただオリヴィエだけは、朝の日光は意外とキツイから嫌いだよ~と大騒ぎしていたが。

やがて一行は“世界の果て”と呼ばれるクイトラの谷に到着した。

伝説ではここでアクハトが神に祈りを捧げたのだが、もちろんここがこの星の終焉の地などではなかった。

ぱっくりと大きく空いた地面は確かに恐ろしげに見えるが、きちんと観察すれば降りれない事はない。

それもそのはずで、この谷の底にははるか昔文明が栄えていたのだ。その文明の中心地に目的の“王家の墓”が待っているのだった。

 

「定員があるからな。誰が乗って下に降りるんだ?」

飛行艇のドアを開けて、オスカーは一同を見渡した。谷を覗き込んで降りれるかどうか判断し、とりあえず残った一隻を持ってこようとフットワークの軽いオスカーが、採掘場に一旦戻って乗ってきたのだ。何ともご苦労なことである。

しかし定員は五名。一行はお互いの顔を見合わせた。

「とりあえず俺、あとはルヴァと……」

オスカーがそう呟くと、ゼフェルが抗議の声を上げる。

「ちょっと待てっ! ルヴァは年寄りだから仕方ねーけど、おめーは人一倍元気じゃねーか。何ちゃっかり人数に入れてんだよ」

「馬鹿はおまえだ。俺が乗らなきゃ誰が操縦するんだ?」

「失礼ですねぇ。誰が年寄りなんですかぁ?」

「ルヴァ、あんた変なとこだけ素早く反応すんだな。……じゃなくて、操縦くらいヴィクトールだってオリヴィエだってできるじゃねーか」

「アンタに言われなくったって、私は最初っから乗ってくつもりだよ。おあいにくさま」

オリヴィエはまだ穏やかに抗議を続けるルヴァを後部座席に押し込むと、自分は助手席にちゃっかり座り込んだ。

「俺は彼と一緒に先に降りていますよ。それじゃ案内を頼むぞ、ジャバル」

「はい、任せて下さい!」

ジャバルは水先案内人を仰せつかり、興奮で頬を昂揚させて谷を下り始めた。ヴィクトールは銃を肩に担ぎ直すと、皆に軽く手を上げ彼に続く。

「おれも歩いておーりよっと! そんなのに乗ってくなんてかえって面倒くさいもん」

「俺も降りれますよ、オスカー様。これくらい何でもないです」

ティールとランディは100メートル走でもする位の気楽さで、相次いで谷間に足を下ろして姿を消す。

「シルマ、君は乗せてもらいなさい。私は歩いて降りるから」

「だったら私も……」

「君は傷がまだ治っていないだろう? 本当はここにだって連れてきたくなかったんだ。私の事は心配いらない、ティールだって居てくれるのだから」

アディルはうつむくシルマの頭をそっと抱き寄せるとオスカーに向かって叫んだ。

「彼女を人数に入れて下さい。私は歩きますから」

「了解だ。はなから女性は人数に入れているさ」

オリヴィエは、どうしようかと谷を覗き込むマルセルをちょいちょいと手招きする。

「マルセルちゃ~ん、こっちおいで。アンタみたいなお子ちゃまには無理だからさ」

オリヴィエの言葉を聞いた途端、マルセルはむっと膨れっ面をしてしゃがみ、恐る恐る谷へと足を降ろした。

「ちょ、ちょっと、マルセル! 危ないからこっちに来なさいってばっ!」

「ぼく、歩いて降ります。ティールだって降りたんだもの、ぼくだってっ!」

「おかしな対抗意識持つんじゃないのっ! アンタとあの子は違うんだから!」

「どこが違うんですか? ぼくと同じくらいの歳じゃないですか! こ、恐くなんかないですっ!」

下を見ないようにして、マルセルは一番近い足場に思いきって飛び降りた。

「あ~あ……ちょっとゼフェル。アンタ、何ポーッとつっ立ってんの! さっさとマルセルを追いかけなさいよ」

「はぁ? けっ、やなこった。おめーが追っかければいーだろ」

オリヴィエは飛行艇から下りると、容赦なくゼフェルのお尻を蹴り飛ばした。

「ぐずぐずすんじゃないよ、このガキンチョ!」

「え? う、うわーっ!」

バランスを崩したゼフェルは足を滑らせ、マルセルが降りた足場に転げ落ちる。

「オ、オリヴィエ! てめーっ、おぼえてろよーっ!!」

「忘れるよーん! そんな事より、マルセルに怪我でもさせたら承知しないからね」

ひらひらと手を振りながら、オリヴィエは上を見上げて悪態をつくゼフェルの視界から消えていった。