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ランディはもつれる足をなんとか持ち上げ、前を行く人物にやっと追いつきその腕を思いきり掴んで引き倒す。
「待てったら! あなたの気持もわかるけど、これじゃ自殺行為だ」
運動が得意で、毎朝聖地をジョギングして身体を鍛えていると自負していたランディだが、乾いた大量の砂がこんなに走りにくいとは思ってもみなかった。腕を掴んで止めようとしただけだったのに、結局自分も砂の上に倒れ込んでしまっていた。
「今戻ればまた皆さんに迷惑がかかる。これ以上、関係のない人を巻き込むわけにはいかないですよ」
「だからってあてはあるんですか? あなたが捕まれば、今度はこの星の人達が被害を受けるかもしれないでしょう?」
ランディにそう言われて、アディルは仰向けに寝ころんだまま口をつぐんだ。ランディは上体を起すと肩で息をしながらさらに続ける。
「あなたは皇太子でしょう? この星の王様になる人がそんな軽率な行動をしてはいけないんじゃないですか? ……俺も人の事はいえないけど」
最後はいささか気まずそうに呟いた。軽率な行動の結果、ランディはここにいるのだから。
アディルも黙って上体を起すと、頭を抱えて深いため息をついた。
ランディの言うことはもっともだと思ったし、落ち着いて考えれば自分がいかに軽率に行動したかが判ってきたからだ。
「……あなたの言う通りだ。目先のことに捕らわれて大局を身失ってはいけないと学んだはずなのに。愚か者だ、私は」
「とにかく戻りましょう」
こくん、と頷くアディルを助け起こし、ランディは自分についた砂をはたき起す。と、
岩山の影から何かが近づいて来るのが目の端に留まった。そちらに首を向けると、金属の機体が太陽を反射してキラリと光った。
「……嘘だろう」
慌ててアディルを背中に庇うと、砂煙をあげて向かってくる機体を睨みつけた。
「遭難者か? こんな所で何をしている?」
反重力艇はランディとアディルの側で空中停止すると、軍人特有の嵩にかかった物言いをしてきた。
飛行艇を操縦している者も入れて、全部で五人。足の捕られる砂地ではこちらにとってはあまりに不利な人数だ。
ランディはアディルを後ろ手に庇ったまま、媚びるような笑いを浮かべる。
「ちょっと道に迷っただけですよ。ほら、その砂丘を越えた所にオアシスがあるでしょう? そこに戻る途中なんです」
「……後ろの奴はどうした?さっきから顔を隠しているが、具合でも悪いのか?」
「え? そ、そうなんです。こいつ身体が弱いから……な?」
ランディがそう答えると、反重力艇から兵士が一人降りてこちらに歩み寄ってきた。ランディは思わずアディルを庇いながら後ずさる。
「どうして逃げる。何かまずいことでもあるのか? ……おい、顔を見せろ!」
「わ、ちょっと!」
兵士が手を伸ばしてアディルの被っているローブを引きはがそうとした。ランディはアディルを追いかけることで精一杯で、武器など何一つ持ってこなかった事を今更後悔した。
「伏せろっ!」
突然、聞きなれたハスキーな声が耳に届き、ランディは反射的にアディルの肩を掴むと彼に覆いかぶさるように砂の上に倒れ込んだ。
ランドバイクは反重力艇の脇を猛スピードですり抜けた。すり抜けざまジャウンを構えて後部座席からジャンプしたティールは、兵士達の乗る重力艇に飛び乗りメインエンジンにジャウンを突き立てた。
エンジン部分が火花を散らし、異様な光が当たりに飛び散り始めると反重力艇から思いきり飛び降りて、あっという間にランディ達の側で立ち尽くす兵士の懐に入り込んだ。
「うっ!」
のど元に熱いライトセイバーの刃を突きつけられ、兵士は身じろいだ。その後ろでエンジンを破壊された反重力飛行艇は、よろよろと頼りなげに飛んでいたかと思うと砂丘のひとつに先端から突っ込んでゆく。慌てて這い出す兵士達の後を追うようにして、飛行艇は激しい爆発音とともに燃え上がった。
「大丈夫か!」
大きく旋回して戻ってきたゼフェルは、まだ砂地に突っ伏しているランディとアディルの側までくると、ゆっくりと機体を下げる。
「ああ、大丈夫だ。ちょっと……砂が口に入ったけど」
「ったく、どんくせー奴」
ティールは指揮官らしい兵士ののど元にジャウンを突きつけたまま、下から兵士を見上げた。
「命は助けてやる。帰ってフェルカドに伝えるんだな。今後アドアディール殿下に刃を向けるというのなら、おれが相手をする。第二皇子、ティシュトリアラースがね」
「兄上はいつもそうなんだからなぁ。人の身を案じる前に自分を守るようにしなきゃ駄目じゃないか」
ティールは腕を組むと、アディルを軽く睨んで呟く。
「……すまない」
本当に申し訳なさそうに頭を下げる兄を見て、ティールはほんのり顔を赤らめると頭を軽く掻いた。
「ま、そこが兄上のいいところなんだけどさ」
「なぁ、ゼフェル。俺、事態がよく飲み込めなくて混乱してるんだけど……」
ランディはバイクの脇に立つゼフェルの側にすすっと近づくと、彼の耳元でこっそり呟いた。
「ああ? オレも昨夜聞いたばっかだ。 何だかオレら、抜き差しならねートコに首突っ込んじまったみてーだぜ」
「アディル!」
シルマはアディルの無事な姿を見ると思わず走り寄った。が、寸前で止まるとすっとぬかずきこうべを下げる。
「ご無事でなによりでした、殿下。お側に戻るのが遅れたことをお許し下さい」
アディルはシルマの前にしゃがむと、地面に着いた彼女の手をすっと取った。そのままシルマと共に立ち上がり、彼女の黒い瞳に優しく微笑みかけた。
「私こそ心配をかけてすまなかった。最後まで父の側に居てくれたんだろう? 私との約束を守ってくれてありがとう……シルマ」
「殿下……」
シルマの大きな黒い瞳が、みるみる涙で潤んでくるとアディルは困ったように笑い、彼女の涙を拭ってやる。
「君は本当に涙もろいな。剣の腕は私より上なのに……」
「……だって」
「……見てらんねー」
周りで見つめる人々の気持を代表して、ゼフェルはポツリと呟き頭を掻いた。