? Guys and Dolls

蒼天幻想

第五章(3)

「――不思議だな、この星は」

地面から数メートルの高さを滑空する、砂漠用のランドバイクを器用に操りながら、ゼフェルは辺りを見回し呟いた。

先程まで歩いていた王都の繁栄ぶりが、まるで嘘のような光景が目の前に拡がっている。

地平線の彼方まで砂で覆われた砂漠。

日が照っている日中は、例え数分でも装備なしで留まっていれば干からびてしまうと思われたのに、朝もやの煙っている今は、ひんやりと心地よい。

いや、少し薄着をしていれば風邪をひいてしまうだろう。厚手のトーブはそんなときにも役立つのだとゼフェルは改めて感心した。

「別に不思議じゃないよ。砂漠なんてどこも同じようなもんさ」

ランドバイクの後ろに座りゼフェルの腰に腕を回して、ティ-ルは吹きつける風から目を逸らしながら答える。

「昼間は50℃位軽くいくし、夜になればマイナスになる。だから生き物は地面の中で暮らしてるんだ。地表に出てる奴なんて、オアシスの側に街を作ってる人間だけだよ」

そう言うと、ティールは右手を前方に延ばし切り立った砂丘の岩山を指差した。

「あそこだよ。あの岩山の向こうに採掘場があるんだ。主星の会社が最近買い取ったって聞いたけど」

「ったく、商人のやろー! なんにでも首つっこみやがって。だからゴタゴタに巻き込まれるんだよ」

自分の事は棚に上げて、とはよく言ったもので、この時ゼフェルは、誰のおかげでマルドゥークにこれたのかをすっかり失念していた。足元のアクセルを踏み込むとハンドルを握って加速する。

「振り落とされんじゃねーぞ、ティール!」

「ゼフェルっ! みんなが追いつけないだろっ!」

「大丈夫だって! あいつ、得意なのは女口説くだけじゃねーからさ!」

 

「ゼフェルの奴、こんなに砂煙を巻き上げやがって。危ないだろうが!」

軽く舌打ちをしながらそれでも巧みにハンドルを操って、オスカーは砂煙の中から地上用反重力艇を抜け出させた。幌がついている為、砂が機内に侵入する事はなかったが、前方のガラスは黄金色に染まっている。

「こんな砂漠ではぶつかる物すらないから安心していい」

後部座席でマルセルに支えられながら、シルマは顔を上げ微かに微笑んだ。

「かもな。だが俺は、君という女性にぶつかってしまった。これは奇跡と呼んでもいいのかもしれないな」

「オスカー……」

助手席のルヴァに冷ややかな目で睨まれたが、オスカーはそんな事など気にも留めない。

「そんな顔するなよ、ルヴァ。俺だって節度はわきまえているぜ。そんな事より見てみろ、あそこじゃないのか?」

オスカーの指差す先に、岩山を二つに割ったような谷の入口が見えてきた。

 

「新手かっ!?」

谷の入り口を睨みつけたヴィクトールは、銃をかまえ照準をキラリと光る機体に合わせる。

目を細めて引き金に指をかけると、こちらに向かって飛んでくるランドスピーダーに見慣れた顔を見て取り、慌てて銃を下ろすと、隣で照準を絞る青年の構えた銃身に手をかけ、下に降ろさせた。

「撃つな! 心配ない、あれは仲間だ」

そう言うと小屋の影からひらりと前に飛び出した。

「皆さん! よかった、ご無事だったんですね」

ランドスピーダーはゆっくりと降下しながら、幌を自動で後部に収納する。地面に接触してエンジンを切ると、オスカーはヴィクトールに駆け寄った。

「いったい何の騒ぎだ?」

ルヴァとマルセルはシルマに手を貸しながら、それでも慌てて二人の側へ歩いてきた。

「谷間に入った途端、いくつか反重力艇の破片を見つけましたけど、まさか反乱軍が攻めてきたのでは」

ルヴァが彼なりに精一杯早口でヴィクトールに問いかけると、それまで少し辛そうにうつむいていたシルマがスッと顔を上げる。

「そのまさかです。谷の入り口は一本道なのでなんとか防ぐことは出来たんですが……。なにぶんこちらには人手が足りませんので」

シルマは、自分を支えるマルセルの手をそっとはずすと、2~3歩歩きヴィクトールを見上げた。

「それで殿下は? アドアディール皇太子殿下はご無事ですか?」

「奥の塔の中にいらっしゃるはずだ」

ヴィクトールの答えに、マルセルは首を傾げた。

「じゃあ、さっきのは誰だったんだろう? ゼフェルとティールが追っかけた人達って」

「何の事ですか、マルセル様?」

問いかけるヴィクトールに、マルセルに変わってルヴァが答える。

「谷の入り口に入る前に人影が二つ走り去ったんですよ。あなたの位置からでは見えなかったでしょうが、ゼフェルが見つけましてね、こちらの方が小回りが利くからと無線で知らせてきて、そのまま追いかけていったんですよ。……危険な目にあっていなければいいんですが」