? Guys and Dolls

蒼天幻想

第五章(1)

――むかし、昔。

世界には神さましかいませんでした。

 

神さまは宇宙を造り、星を造り、生き物を造りました。

そして星々に名前をつけると、それぞれ生き物を住まわせ、宇宙を外から眺める事にしたのです。

 

この星はマルドゥークと名付けられ、二人の人間に与えられました。

男はアクハト、女はイナンナといい、二人は夫婦となって子供を産み育てました。

 

しかしこの星には太陽がありませんでした。その為でしょうか、どこからか悪魔が産みだされ、地上の生物を脅かすようになったのです。

折角育った植物は枯れ、動物達も次々に死に絶えてゆきました。

「このままでは私達も死んでしまう」

そう考えたアクハトは、“世界の果て”へと旅に出ることにしました。

世界の果て”には時空のはざまと呼ばれる扉があり、そこから宇宙の外にいる神さまに悪魔を倒す方法を教えてもらうことにしたのです。

アクハトは妻と子供達に、必ず帰ると約束すると、暗闇の中を歩きだしました。

 

沢山の山と沢山の谷を越えて、アクハトはついに“世界の果て”にたどり着きました。

「神よ、聞えますか? あなたによって産みだされた私たちは、いま悪魔によって滅ぼされようとしています。父親は我が子を守る者。どうかあなたの子供である私たちをお守り下さい。悪魔に打ち勝つ力をお与え下さい」

アクハトがそう夜空に叫ぶと、空の一郭がきらきらと輝き始めました。アクハトが驚いて見ていると、それは光の弾丸のように走り、アクハトの隣に落ちてきました。そしてその光は、段々と形を変え、あっという間にアクハトの末の息子に変わったのです。

「お父さん。僕はついさっき神さまに会いました。神さまは『おまえに力をあげよう。その力で家族を助けてあげなさい』そうおっしゃって僕の両手を握られたのです」

末息子は自分の両手を父親に差し出しました。少年の両の手はきらきらと輝き、アクハトが握ると、その光はゆっくりと消えました。

「さぁ帰りましょう、お父さん。それから、帰り道で最初に見つけた木の枝を持ってゆく事にしましょう」

 

アクハトと末息子は“世界の果て”を後にしました。途中息子の言った通り、砂地から顔を出していた枯れかけた木を見つけたので、その枝を持ち帰りました。

家に帰ると、妻のイナンナは目の前から突然消えた末息子が父親とともに帰って来た事に大層驚きましたが、訳を聞いて神さまのなさる事に感謝しました。

末息子は、さっそく持ち帰った木の枝を使って、粗末な弓を作り上げました。そしてその弓をアクハトに手渡しました。

こんなもので悪魔を倒せるのだろうか、とアクハトは考えました。しかし神さまのお告げと、イナンナに励まされ彼は家族を守る為、悪魔の砦へと向かったのです。

 

悪魔は砦の中で休んでいました。アクハトはそっと近づき、弓を構え悪魔の眉間に矢を打ち込みました。

ねらいは少しそれて悪魔の右目に当たりました。

すさまじい痛みに目を覚ました悪魔は、アクハトを見つけると鋭い爪の付いた手を彼めがけて振り降ろしました。

その時心配してこっそり夫のあとをつけてきたイナンナが彼をかばい、悪魔の爪を受けてしまったのです。

アクハトは再び弓に矢をつがえました。

今度は狙いどうり悪魔の眉間をとらえ、悪魔はその巨体を倒すとそのまま動かなくなりました。

 

アクハトは倒れたイナンナを抱き上げ、彼女に話しかけました。

「悪魔は倒れた。もう何も心配しなくていいのだから、どうか元気になっておくれ」

「いいえ、私はもう駄目でしょう。けれど悲しまないでください。この身体がなくなっても、私はこの星の大地となって、いつまでもあなた達を守っています」

イナンナはそう言うと両の目から涙を流し、瞼を閉じました。彼女が流した涙は青い石となって地面に転がり、アクハトの腕の中のイナンナの身体は砂となって大地に溶けていったのです。

 

両親の後を追いかけてきた子供達は、倒れた悪魔と立ち尽くす父親の様子に驚きました。

アクハトは一番上の子供を呼ぶと、地面に落ちた青い石を拾うようにと命じました。

子供がその石を拾うと、彼の闇色の瞳がみるみるうちに深い蒼色に変わったではありませんか。

「この石はお母さんの涙。大地が流した慈悲の雨だ。そしておまえはそれを受け継いで生きていかなければならないよ。この星の主。慈悲の瞳を持つ正当な後継者として」

そして末息子を呼ぶと二人の手をしっかりと握らせたのです。

「おまえは神の手を持つ者。神から授かったその力をこの星の為に使うのだよ。兄弟、力を合わせて」

そして彼が作った弓を末息子に返すと、アクハトは子供達に別れを告げ“世界の果て”に行くことにしました。

 

アクハトは“世界の果て”にたどり着くと、再び空に話しかけました。

「神よ、聞えていますか? イナンナが大地となってこの星を守るのならば、私は太陽となってこの星を見守ってゆこうと思います。再び悪魔が目覚めぬように」

神さまは彼の願いを聞き届けました。そして彼を天にあげ、太陽に変えたのです。

それ以来、悪魔は再び目覚めることなく、アクハトの子供達はこの星に沢山の命を産みだしました。

 

アクハトの一番上の子供は王となり、この星を治めました。

アクハトの末の息子は“神の職人”コシャルハシスと呼ばれ、兄を影から支えました。

そして悪魔を倒した弓“アクハトの弓”はコシャルハシスの造る武器“ジャウン”と呼ばれ、正統な王のみが扱える武器として神殿に祭られることになったのです。

 

~マルドゥークの神話より~