? Guys and Dolls

蒼天幻想

第四章(5)

「――こちらの方々には、いかに非常事態とはいえ好意に甘えご迷惑をおかけしました。神の子としてこの地を収める者として幾重にもおわび申し上げます」

アドアディールナーイ=アッシャムラーアは深々と頭を下げた。

いやしくも一王国の皇太子ともあろう人物が簡単に頭を下げることに、その場の全員はあっけにとられた。

その様子をアドアディールは頭を上げたときに見てしまい、ふっと軽く微笑む。

「感謝の気持を表すのは、例え王族といえど当然の事。そのように驚かれる事ではないでしょう」

「そ、そうだよねぇ。当たり前だよねぇ。ハハハ……」

「そ、そうですよね……」

「わ、若いのにさすがですわ。いや、おみそれしまし……た」

三人の脳裏には同じビジュアル(謁見の間に立つジュリアス)が浮かんでいたが、誰もそれを口にはせずひたすら照れ隠しに乾いた笑いを浮かべあった。

「と、ところでさぁ。皇太子殿下」

オリヴィエがばつの悪い沈黙を破って、まず最初にアドアディールに話しかける。

「アディルと呼んで下さって結構です。旅の方」

「じゃ、私のこともオリヴィエでいいよ。こっちの坊やはランディ。で、この軽そーな社長はチャーリー…」

「軽そう、は余計ですわ」

「それから外に警備しに行ったヴィクトールって人がいるんだけど、あとで紹介する」

「はい」

「……で、アンタには聞きたい事が山ほどあるんだ。今まで宰相の息子として暮らしていた男が、何故クーデターを起したのか? そこそこの地位に就いてるのに、何だって足元からひっくり返す様な事したのか全然分かんないよ。それと何故マタルの貿易を一時的とはいえ中止したのか? 取引惑星から糾弾があるだろうにね。それから……」

「私が、何故ここにいるのか? ここの方々が何故私を匿ったのか、ですか?」

アディルの答えに、オリヴィエは満足そうに彼独特の艶やかなウィンクを投げる。

「そうそう。頭のいい子は大好きだよ」

 

「異常はないようだな」

ヴィクトールは、採掘場のある谷間の入り口に造られた小さな警備小屋に入り、そこにいた現地の若者に声をかける。

「はい、今のところは」

「そうか。だが気を抜かんでくれよ。この星で反乱の事実を知っているマルドゥーク人は、この採掘場の人々だけだ。しかも皇太子という爆弾まで抱えている。気をつけすぎるということはないからな」

今日の朝初めて会ったばかりだが、この青年はヴィクトールにかなりな信頼を寄せるようになっていた。

彼の軍人としての優秀さがこの青年にはすぐに読み取れたのだろう。昼間、自分も軍人になってこの星を守りたい。と少し興奮したように話しかけてきた。

「そうか、勇ましいな。だがな、大切な人を守るという事は真っ先に駆け出して死ぬという事じゃないぞ。最後まで生き残って無事に帰ること。そして命を育むこと。それが星を守るってことだ」

生きて帰った事を恥じていた自分。それは間違いだったと気付かせてくれた人々。

その思いをとつとつと語るヴィクトールに感銘をうけ、それから彼の態度が、上官に対する部下のそれへと変わった。

「……夜は冷え込むな」

「はい。夜は天霊アクハトがいらっしゃいませんから」

「天霊アクハト?」

ヴィクトールは聞きなれない神の名に、青年を振り返り微かに首を傾げた。

「ええ。我らマルドゥークの民の始祖でもあり、神でもある天霊アクハトと地霊イナンナの事です」