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「いやー、全員無事で良かったわ! 連絡取れへんちゅーからもう心配で心配で……」
チャーリーは監督官の肩をバンバン叩くと、嬉しそうに破顔した。
「ご心配をおかけしまして申し訳ありません。こんな所まで、社長自ら足をお運び下さるとは、社員冥利につきます。……ウォングループのご厄介になって早二十数余年。これほど感激したことはありませんっ! わたしは、わ、わたしはっ!!」
主星より派遣された監督官、ウェルナー四十三歳は感極まって泣き出した。
「あ~、も~ええて。おっさんに感動されて泣きつかれても、嬉しないし
なぁ。可愛い娘さんがおって、その子が泣きついてくれるんなら話は別やけど」
「……は? 娘なら主星におりますが」
「ほんまか!?」
「はい。当年十歳になる娘です。親の私が言うのもなんですが、これがもう大層可愛い子で。ご覧になります?」
ウェルナーはピタリと泣きやむと、上着の内ポケットから写真を取り出そうと手を動かす。その手を慌てて掴むと、チャーリーはため息をつきながら首を振った。
「……いや、遠慮しとくわ。はよ帰り支度したってんか」
「は、はぁ」
「漫才は終わったか?」
ヴィクトールの笑いをかみ殺したような声に、チャーリーは恨めしそうな視線を向けた。
「誰が漫才しとるんです?」
「あら、違ったの? アンタってホント、先物買い上手だねぇ」
「オリヴィエ様まで、誤解を受けるよーな事、言わんとって下さいよ」
チャーリーが情けなさそうにため息をつくと、帰り支度をする為に部屋を出ていったウェルナーがバタバタと足音高く舞い戻ってきた。
「しゃ、社長。気が動転してすっかり忘れておりましたっ! 我々はまだここを立ち退くわけにはいかんのです。その……預かり物をしておりまして」
「預かりもん?」
「はい。あのですね……」
ためらいがちにそう呟くと、ウェルナーはちらりと後ろの三人に視線を走らせる。この人達の前で喋ってもいいものだろうか、とチャーリーの顔を伺うように覗き込んだ。
ああ、と後ろを振り返り、チャーリーはひらひらと戯けたように手を振った。
「かまへん。あっちのごっついお人はボディーガードやし、こちらのお二人は友人みたいなもんやから気いつかう事あらへん」
「はぁ……」
「なんでそれをはよ言わんのやっ! ほんまにもう!」
「も、申し訳ありません。社長が来て下さった事で気が動転してしまいまして……」
チャーリーは彼にしては珍しく、いらだちを隠さなかった。しきりに頭を下げるウェルナーを無視してズンズンと先へ進み、前を歩くオリヴィエとランディに声をかけた。
「すんまへん。社員の監督不行き届きですわ。まさかこんな事にからんでるやなんて」
「仕方ないよ、事情が事情だしね。……この部屋だね、ウェルナー?」
「は、はい」
オリヴィエは立ち止まり、正面を向いて深呼吸をすると、軽くドアをノックする。
微かに何かが動く気配が部屋の中から感じられた。オリヴィエはドアノブにそっと手をかけると確かめるようにゆっくりと扉を押し開ける。
部屋の中は暗かった。
石を積み上げて造った壁に囲まれたその部屋は、石造りの塔の内部のような造りだった。
天井が高く、上に行くにつれ細くなってゆく。その丁度中間辺りに石を退けただけといった小さな天窓が開いている。月の光がそこから差し込み、部屋の明かりといったらそれだけだ。
その月明かりの中、たった一人そこにいた人物は床に座ってこちらを伺っていた。部屋の入り口から覗く見慣れない集団をみとめ、ゆっくりと立ち上がる。
きちんと巻かれた聖布から微かに覗くライトブラウンの前髪。穏やかにこちらを見つめている青緑の瞳。引き締まった口元。
すらりとした姿形といい、立ち上がるときの優雅な身のこなしといい、たとえウェルナーから何も聞いていなくとも、この人物がただ者ではないとその場に居る全員がわかっただろう。
「はじめまして……ってのは変な挨拶かな? マルドゥーク王国皇太子様」