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「――ええ、見たわよ。銀色のつんつんした髪の子でしょ?間違いないって!」
ルヴァの隣でその女性は快活に笑う。身につけた衣装は、露出した部分の方が隠した部分より遥かに大きかった。
ここの女性達は、どうやら他の星から出稼ぎに来ているらしく、頭に布をまいていなかった。ルヴァは目のやり場に困って、視線を宙に泳がせる。踊り子は素早くウイスキーの水割りを作るとルヴァに手渡した。
「あ、いえ、私は結構です」
慌ててテーブルに置こうとするのを、彼女が押しとどめた。
「あら~、あたしのお酒は飲めないっていうの?」
「そういうわけでは……」
「じゃ、飲んで! じゃないと~これ以上教えたげないからね~」
楽しそうに彼女はルヴァの顔を覗き込んだ。その大きな灰色の瞳はいたずらっ子のように光っていた。
「観念して一杯くらい飲んでやれよ、ルヴァ。あんただってまったく飲めないって訳じゃないだろう?」
オスカーは反対側のソファーから声をかける。彼の両隣に陣取る女性達も、そんなルヴァの慌てぶりが面白らしく、くすくすと笑っていた。
「はい、あなたも飲んで。赤毛のハンサムさん」
「いや、今日は遠慮しておくぜ。俺は彼の引率者だからな。それに……酒に酔うのではなく君に酔いたい」
「まあ。……ふふっお上手ねぇ」と、これも踊り子の衣装に身を包んだ、オスカーの右隣に座った女性は軽く笑う。しかし、薄明かりの中でも彼女の頬がぽっと上気したのをルヴァは見てしまった。
彼女もまんざらではないらしい様子がわかって、ルヴァは思わず今度はオスカーに見とれてしまう。
どうやったらあんなふうに女性を扱えるのだろう。とても見習う事は出来ない。どうしたらあんな風に自信満々に生きることが出来るのだろう。
ルヴァがぼーっと向かいの席を観察している横で、踊り子が軽くルヴァの袖を引っ張りこちらを向けさせてにこりと笑う。
「ほら、飲んで。大丈夫よ、すっごく薄いから」
「は、はぁ……」
ルヴァは意を決してグラスを口元に運ぶと、中身を一気に流し込んだ。
「すごいっ、やるじゃない!」
ぱちぱちと嬉しそうに彼女は手を叩いた。オスカーはあっけにとられて自分も煽った事実を忘れて、恐る恐る声をかける。
「……大丈夫か?」
「大丈夫……みたいです」
ルヴァは空になったグラスを見つめる。思ったほど強くなく、ほんのりとウイスキーの甘い香りが漂っている程度だった。彼女の言った通り、本当に薄く作ってあったのだろう。
「じゃ、約束だから……教えたげるね」
「あ、はい。お願いします」
ルヴァは律義に彼女に向き直る。しかしやはり視線をどこに合わせてよいのか困り、彼女の後ろの壁に焦点を合わせた。オスカーも表情を引き締め、軽く身を乗り出す。
「ここに来るお得意さんでね。そうだなぁ……六十歳位のおじいちゃんなんだけどね。偉く羽振りがいい割には、この辺のぼっろい工場、スクラップ工場みたいなとこに住んでる人がいるの。最近はちょっとお見限りなんだけど、その人のとこに孫みたいな男の子が一緒に住んでるのよ。で、その子の友達かしら、最近もう一人見かける様になってね。こう頭がつんつんしてて……」
「赤い瞳、ですか?」
「……だったと思う。遠目だからよくわからないけど」
「他には見なかったか? 金色の髪の女の子みたいな少年とか」
「うーん。そういう子は見てないわね」
ルヴァはオスカーをちらりと見やった。オスカーは無言でうなずくと、両脇にいる女性達に微笑みかける。
「二人とも悪いな。ちょっとやぼ用ができてな。名残惜しいが失礼させてもらうぜ」
「もう帰るの? 今来たばかりじゃない」
少しふくれる一人の手を取り、軽くキスをしてオスカーは微笑んだ。
「楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものなんだ。だからこそ美しいともいえる。君のように」
ルヴァは立ち上がると、ゼフェルらしき少年を見かけたという彼女に頭を下げた。
「ありがとうございました。多分私が捜している子だと思います」
「ねぇ、その子もしかしてあなたの弟さんなの?」
「ま、まあ、そんなものですね」
彼女はその生真面目な態度にくすっと笑うと立ち上がり、ルヴァの頬に唇を押し当てた。
「弟思いのお兄さんへ、あたしからのご褒美よ」
ルヴァはたちまち真っ赤になり硬直する。
「ルヴァ、置いていくぞ!」
「あ、は、はい。そ、それじゃっ……」
「また来てね。素敵なお兄さん!」
扉の前で呆れたように待っているオスカーの処へ、ルヴァはたどたどしい足取りでよろめきながらもなんとかたどり着き、こちらを振り返るとぺこりと再び頭を下げる。そしてそのままオスカーに引っ張られるようにして、夜の街に消えていった。