? Guys and Dolls

蒼天幻想

第二章(7)

「――ジュリアス様。ルヴァを同行させるのならばひとつお願いがあるのですが」

オスカーはルヴァが部屋から出ていくのを見届けると、ジュリアスにそっと囁いた。

「どうした?」

「はい。私の任務は年少の三人とルヴァを無事聖地に連れ戻す事。ですが年少三人組を捜すにあたり、どうしてもルヴァにまで目が届かなくなる可能性があります。出来ればもう一人、人手が欲しいのですが」

オスカーにしてみれば聖地の親衛隊の中から優秀な兵士を一人同行したい、という趣旨だったのだが、ジュリアスにはどうもそうは受け取れなかったらしい。

自分がティアマトの街を歩き回っている間、ルヴァの監視役兼遊び相手(?)が必要だと訴えているのだと理解した。

「そなたの言うことももっともだ。……リュミエール」

「はい?」

「そなた、ルヴァとオスカーに同行してはくれないか?」

「わたくしが、ですか?」

「ジュ、ジュリアス様!!」

オスカーは顔面蒼白になる。

『何故だっ! 何故よりによってこいつに声をかけるっ!?』

オスカーのそんな心の絶叫などジュリアスに届くはずもなかった。いつも仲良くお茶しているリュミエールならば、ルヴァのいい話し相手になると思っただけだったから。

「オスカーがルヴァの話し相手が一人必要だといっている。自分が自由に動けるようにとな。同行してくれないか?」

「ですが……。」

リュミエールはちらりとクラヴィスを振り返る。クラヴィスは相変わらず良いとも悪いとも合図を送ってはくれない。

次にジュリアスのそばにいるオスカーに視線を送る。こちらは全身で拒絶のオーラを送ってくる。リュミエールは、それが面白くて、思わず微笑みを浮かべた。

その微笑みを見た途端、弾かれたようにオスカーは駆け出すとオリヴィエの腕を掴み手を上げさせた。

「ち、ちょっとっ! なにすんのっ!」

「ジュリアス様っ! こ、ここに志願者がいましたっ!オリヴィエが是非一緒に連れていってくれとっ!」

「んなこといってないでしょーが! やだよ、砂漠の星なんて日差しは強いわ、乾燥してるわで最悪じゃない。お肌がボロボロになっちゃうよ」

「男が細かいことを気にするなっ!」

「細かいことじゃないね。私にとっては命の次に大事なもんなんだから」

肩に組まれたオスカーの腕を振り払おうとしてオリヴィエは身体を捩った。そのオリヴィエを離されまいとオスカーは必死で押さえつけながら、声を落として囁いた。

『暴れるな極楽鳥! おまえの好きな民族衣装買ってやるからっ!』

『――飾りの首飾り、3つ付けてくれる?』

『人の足元見やがって~! ああ、3つでも4つでも付けてやるっ!』

「じゃ、交渉成立!」

オリヴィエは艶やかな微笑みを浮かべると、ジュリアスに向かって挙手した。

「しょうがないね~。大親友のオスカーの頼みだからさ、私が一緒に行くよ」

いつの間にかオスカーと親友になったオリヴィエの申し出に、深く考えもせずリュミエールを推挙したジュリアスはあっさりとうなずいた。

「そうか、オリヴィエが行ってくれるならルヴァだけでなくオスカーも心強かろう。では、頼むぞ」

「まかせといてよ」

ジュリアスは手配が終わったと見て取り、謁見の間を後にして執務室に戻ってゆく。オリヴィエはオスカーに意味深な笑いを投げる。

「――約束、破るんじゃないよ。でないと、リュミちゃんに言いつけるからね」

オリヴィエはオスカーの弱点などとうにお見通しだったのだ。オスカーは悔しがったが今更返す言葉もない。

そのオスカーの前を、音もなくクラヴィスが通り過ぎる。今日も彼の発言はなかったが、その存在感だけは相変わらずだった。

そして、彼の後ろに最後の一人が静々と付き従う。リュミエールはオスカーの前に来ると、ぴたりと立ち止まりゆっくりと視線を向ける。

「な、なんだ。俺に言いたいことでもあるのか?」

「いいえ。ただ……」

「ただ?」

オスカーが怪訝そうに聞き返すと、リュミエールはにっこりと笑って答えた。

「わたくしが同行していれば……。いえ、なんでもありません。お気をつけて」

そう言うとリュミエールは、クラヴィスの後を追って謁見の間から姿を消す。

残されたオスカーは、しばらく動くことが出来なかった。