? Guys and Dolls

蒼天幻想

第二章(6)

「――では、あの三人はマルドゥークにいる、ということですか?」

リュミエールは、美しいその顔を微かに歪めてジュリアスを見上げた。

「ああ。先程ヴィクトールから連絡が入った。三人は、無事首都に入国することが出来たそうだ」

ジュリアスが苦々しげに呟く。彼にしてみれば守護聖が軽々しく下界に行く

ことすら許せないことだと思っている。しかも今回は、あろうことかクーデターが起こって国交を断絶してきた惑星に物見遊山で出かけるなど。ジュリアスにとってその行為は女王への背信行為にすら思えた。

「何を考えているのだ、あの者達は。いかに幼いとはいえ、今回ばかりは許すわけにはいかぬ。オスカー、早速マルドゥークに赴きあの者達を連れ帰って来てくれ。首に縄をかけてでもな」

「かしこまりました」

オスカーが一礼すると、オリヴィエは手を上げてジュリアスに問いかけた。

「はーい、ジュリアス。ひとつ質もーん! 国交断絶してんのに、あの子達はどうやって入国出来たの? それにオスカーが迎えに行ったって、足止め喰ったんじゃ意味ないんじゃないの?」

オリヴィエの言うことはもっともだと、リュミエールも微かにうなずいた。その二人にジュリアスは、威厳を正してこう告げた。

「その心配は無用だ。すでに手は打っておいた。……来たようだな」

パタパタと足音が謁見の間の外で響いたかと思うと扉の前で止まり、控えめな声が響いた。

「失礼します、守護聖様方。僕をお呼びとの事でしたが」

 

「――惑星マルドゥークの国王陛下とは、懇意にさせていただきました。気候が似通っているせいか、民間レベルでの技術交流も盛んです」

ティムカははきはきと答える。とてもメルより年下とは思えない落ち着きようだった。

「話は聞いているな、ティムカ。ぜひそなたのお国の力が必要なのだ」

「僕に出来ることでしたら、どんなことでもご協力は惜しみません。父も快諾してくれました」

ジュリアスは満足げにうなずくと、オスカーを振り返った。

「聞いた通りだ。オスカー、そなたはティムカと共に熱帯惑星に行き、そこで用意されたパスポートを持ってその足でマルドゥークに向かって欲しい」

「はい」

まだ不審げな顔をするオリヴィエ達に、ティムカはにこりと微笑みかけた。

「僕の故郷は現在のマルドゥークと取引が続いている、数少ないひとつなんです。先程、父様に連絡してみたらまだ大丈夫だと言われたんです。民間レベルの繋がりというのはなかなか切れないのでしょうね」

「ティムカの故郷のパスポートを持ち、その星の宇宙船で技術者が入国するのだ。何も問題はなかろう。頼んだぞ」

「はい、では早速」

「あ、あの、オスカー。私も連れていって下さい」

その場にいた全員が目を見張る。今まで黙って事の成り行きを聞いていたルヴァが、迸るように口を挟んだからだ。

「アンタの気持ちはわかるけどねぇ。思い出の中の故郷とはだいぶ変わってるよ、やめといたほうがいいって」

オリヴィエは優しくルヴァの肩をたたいた。しかしルヴァはさらに口調を強める。

「ここでじっと待っているのは辛いんです。足手まといになるかもしれませんが、どうかお願いします」

ルヴァは深々と頭を下げる。同僚とはいえ、守護聖としては遥かに先輩である地の守護聖に頭を下げられ、オスカーは珍しく動揺していた。

ジュリアスはその様子を驚いて見ていたが、ふっと表情を和らげ苦笑する。

「……よかろう。同行を許す」

「ジュ、ジュリアス様!?」

「ち、ちょっと、ジュリアスってば!」

リュミエールとオリヴィエは同時に声をあげた。クラヴィスですらそのジュリアスのひと言が信じられないように、僅かに目を見張る。

「そこまでするからには、余程の決意があるのだろう。故郷への思いとはそれ程強いものなのか?」

「私にもわかりません。でも、行きたい、行かなければならないと私の中で誰かが強く訴えるんですよ」

ルヴァは穏やかだがいつになく強い視線をジュリアスに返した。

「……わかった。技術者という名目ならばそなたの知恵は役に立つだろう。オスカーもよいな?」

「は、はい。ジュリアス様の仰せならば…」

「お願いしますね、オスカー」

ルヴァの顔がぱっと明るくなる。やっと穏やかになったルヴァの表情を見て、ジュリアスはくるりと踵を返し窓の外を見つめた。

「なれどよいか、決して一人で動かぬように。我らは守護聖として永き時を渡ったが、いかに故郷とはいえ外界についてはまるでわからぬ赤子に等しい。オスカーから決して離れてはならぬ」

ルヴァは自分に背を向け、いつもと変わらぬ口調で命令するように話すジュリアスに微笑みかける。ジュリアスなりに心配してくれているのがわかる。

その証拠にいつもは正面から切り込むように話す彼が自分に背を向けている。表情を読まれまいとする彼の気持ちを受け止め、ルヴァは扉に手をかけた。

「もちろん心得ています。では私は支度をしてきますね。……ありがとう、ジュリアス」

扉はゆっくりと閉じられた。