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「……呆れたな。社長自ら危険地帯に忍び込もうっていうのか。しかし実戦経験なんかあるのか? 治安は保証されていないんだぞ?」
「そこなんですわ。この通り、俺は見るからにぼんぼんで、箸より重いもん持ったことがなくて。身を守る武器なんて、とてもとても……」
はぁ、とチヤーリーは冗談めかしてため息をつく。
チャーリーの決意は大したものだ、称賛に値する。だがいささか現実的ではない、とヴィクトールは思った。
どうしたものかと考え込むヴィクトールに、突然チャーリーは例のいたずらっぽい視線を向けた。
「さ、そこでヴィクトールさんのご登場! というわけで」
「?」
「さっきも言った通りうちにも軍隊がある。けどそこから俺の護衛を出したら、いざって時にウォングループが関わっているとばれて大変なことになる。表向きは、あくまでも放蕩息子の俺が道楽で遊びに来た、とせなあかん。ほな傭兵でも雇うかとなったが、どうも最近傭兵の質が落ちとってなぁ。平和=仕事がないという訳で実戦経験のないもんまでおるんですわ。そんなんに高い金出して危険な目におうたんじゃ、しゃれにならへん。で、考えに考えた揚げ句思いついたんは、あんたのことや、ヴィクトールさん」
「お、俺か?」
「せや。実戦経験豊富で人柄もいい。俺とはふかーい間柄やから気心も知れてる。そして今のところ、定職についていないプータローやっちゅうとこや」
「……プータロー」
「女王試験が終わったら王立派遣軍に戻るつもりやったとしても、今は無職ですやろ?」
うっ、とヴィクトールは言葉に詰まった。
確かにチャーリーの言う通り、女王試験が終わって主星に戻ったら、もう一度王立派遣軍に志願しようと考えていた。
例え一兵卒の身分になったとしても(一度は将軍職にまで上り詰めた人物なのだからそれはないと思うが)もう一度人々の役に立てるなら。
辛い過去を受け止め、自分の中に吸収してそう思えるようになったのは、聖地の人々のおかげだった。
しかし少なくとも、今現在はチャーリーの言う通り定職にはついていない。元王立派遣軍将軍、元聖地教官。総て“元”である。
「確かにおまえの言う通りだが。……どうも違和感があるな」
「それが現実や。でも、もたもたしとったら聖地から帰ってきて王立派遣軍に復帰してしまう。と思うて、慌ててブラックストーン大佐に連絡したというわけですわ」
「なるほど、やっと話が飲み込めた。ブラックストーンの奴、『せっかく帰ってきてくれたところ悪いが、復帰するのはもうしばらく待ってくれ。そのままの身分で頼みたいことがある』なんて言うからな」
「俺のじーさんが大佐のじーさんの友人なんですわ。子供の頃に二、三度会った事しかあらへんのやけど」
「つくづく根回しのいい奴だな、おまえは」
「駆け引き上手とゆーて欲しいですわ。それにこれは王立派遣軍から内々に任された任務でもありましてな」
「任務?」
「聖地のお偉いさんも表立って行動できないのは同じなんですわ。女王陛下は各惑星の政治には干渉しないのが鉄則。でも、事が宇宙中の資源問題に関わってくる……と、どうにも困り果てておったらしいですわ。で……」
「渡りに船、というわけか」
「あくまでもついで、で様子を探ってきて欲しい。もし国民が虐げられているようならば、それを理由に直ちに進軍許可をとる、とのことでしてな」
ヴィクトールは呆れて苦笑した。行き当たりばったりに思えたチャーリーの計画は、何のことはない王立派遣軍の、しいては女王陛下の特別任務だったのだ。
「どうですか、ヴィクトールさん。引き受けてくれると助かるんやけど」
「引き受けなかったらどうなるんだ?」
「せやなぁ。ま、少なくとも王立派遣軍への復帰は厳しくなるかもしれませんなぁ」
「まったく。そろいも揃って策士ばかりだな」
「すんまへん」
チャーリーは頭を掻いて苦笑した。ヴィクトールは絶対に断らない、と踏んだ上でブラックストーン大佐と練った計画だった。
「――いつ、出発するんだ?」
ヴィクトールはしばらくの沈黙の後に落ち着いた声で訊ねた。チャーリーは真顔に戻って答える。
「なるべく早く。いろいろ準備があるんでその時間はとらなあかんでしょうけど」
「じゃあ、明日出発しよう。準備なら今からやればいい」
「ええっ! 明日? そない短い時間で大丈夫ですの?」
驚くチャーリーにヴィクトールは不敵な微笑みを向けた。
「心配するな、俺はプロだぞ。経験豊富な一流の傭兵にまかせておけ」