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「待ち合わせはここのはずなんだが」
ヴィクトールは小さな紙切れを再度確認し、腕時計をちらりと見やった。
「あと3分か…」
主星の首都のさらに中心。そこは公園になっていた。
休みの日には家族連れが楽しそうに歩き回り、恋人同士が腕を組んで歩く。今日は平日な事もあって、それ程人はいなかったが、その平和な光景はどこか聖地の庭園を思わせた。
『何かにつけ聖地と比べるとは……いつの間にか、故郷のように思っているのかもしれんな』
ヴィクトールはふっと思いだし笑いをし、慌てて顔を引き締めた。公園の入り口の待ち合わせ場所の前に、黒い車が止まったからだ。
黙ってベンチから立ち上がりそちらに歩いてゆくと、助手席のドアが開き、黒いサングラスをかけた無表情な男が出てくる。
男は黙って2~3歩下がると、車の後ろのドアを開け、出てくる人物に会釈する。男に軽く声をかけると、その人物はゆっくりとヴィクトールに歩み寄ってゆく。
きっちりしたいかにもビジネスマン、といったスーツに身を包み、やはり黒いサングラスをかけている。
「お、おまえは……」
ヴィクトールが驚いて立ち止まったのを見て、その男は軽く唇の端を持ち上げ、サングラスを僅かにずらした。いたずらっぽそうな瞳が楽しそうにヴィクトールを見つめ返していた。
「憶えててくれたんか。いやーうれしいわ!」
「しかしおまえが依頼人だったとはな。……っと、俺はまだ名前も聞いていなかった」
「ああ、チャーリーって呼んでください」
ヴィクトールと“庭園の謎の商人”ことチャーリーは並んでベンチに腰掛けた。不意に会話に詰まって思わず顔を見合わせ、どちらからともなく吹き出す。
「しかし、半年以上付き合いがありながら名前すら知らなかったとはな」
「まったくですわ。俺とヴィクトールさんは、身体を分かち合った仲やのになぁ」
傍から聞くと思わずぎょっとする発言を、チャーリーはしれっと口に出す。(CD不思議チェイサー参照)
「ああ、今となってはいい思い出だがな」
「ほんまですわ。あん時はどないしょーって大騒ぎしてたんが嘘のようですわ」
つい最近の事なのに、ひどく懐かしく感じられた。二人はしばし沈黙する。
「ああ、いかんなどうも。つい感傷的になる。そろそろ話を聞かせてもらおうか」
ヴィクトールは表情を引き締め、チャーリーを振り返る。これが軍人の時の顔なのか、とチャーリーはふと思った。
「どこまで聞いてます?」
チャーリーもウォン財閥の若き社長の顔になって問いかけた。
「とある惑星で反乱が起きた。そこは最近になってぐんと需要が伸びた新資源の宝庫だが、反乱軍はその貿易の差し止めを発表したため、宇宙規模での混乱は避けられない。その余波はあらゆる企業に大ダメージを与えるだろうと」
「その通りですわ。そしてそれは、宇宙で1、2を争うと言われる我がウォングループも例外ではありまへん。そこにはウォングループが所有する採掘場があるんやけど、まるで連絡がつかへん。もーほとほと困ってるところなんですわ」
チャーリーは軽く肩をすくめる。
「で、賢くってハンサムな若社長はこう考えた。採掘場には現地で集めた作業員だけやのうて、主星から責任者として送り込んだ社員がおる。彼らだけはなんとしても無事に家族の元へ返したらなあかん。それは我が社に忠誠を誓ってくれた社員の当然の権利やし、社長の義務でもある。ヴィクトールさんなら知っとると思うさかい言うんですけど、俺ら位の規模の会社になると、ま、いろいろありましてな。せやさかい大きな声ではいわれへんけど“私設軍隊”まがいなものも所有してます。あ、もちろん合法的組織にしてますけど」
「あれだけ大きな会社だ。そういうものも必要だろう」
ヴィクトールの呟きに、チャーリーはほっとしたように先を続けた。
「かといって表立って事を起こせば、これは外交問題にもなりかねへん。なんせ自慢やのうて、ウォングループは主星を代表する企業になってしまいましたからなぁ」
チャーリは腕を組んで、自分の言葉に頷いた。ヴィクトールはその仕草に軽く微笑むと、無言で先を促す。
「そこで、またハンサムな社長は考えたわけです。だったら裏から廻ればいい。表から大人数で乗り込むわけには行かないなら、裏からこっそりと少人数で潜入すればええんやないか。現地の社員と連絡が取れれば、その先はどーにでもなるんやないかと」
「ずいぶんと乱暴な作戦だな」
「今はそれが精一杯、というかそれ以外考えられへん。でも、確かにヴィクトールさんの言う通り乱暴な計画ですわ。だから、うちの可愛い社員にはとてもさせられへん。なら、誰が行くか? ……ま、答えはひとつですわな」
簡単に答えるチャーリーの様子にヴィクトールはまさか、という表情を向けた。
「そのまさかですわ。この賢くて、ハンサムで、勇気のある若社長の俺以外にはおらんのですわ」