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マルセルの大声に驚き、ゼフェルは慌ててマルセルの口を右手で塞いだ。
「っの馬鹿っ! でけー声出すなっ! 見つかっちまうだろーがっ!」
辺りをきょろきょろと見回したが、人が出てくる気配はない。ゼフェルはホッと肩の力を抜くとマルセルから手を放した。
「ああ、そーだよ。女王試験が終わっちまった聖地にいたって、退屈で死んじまうかんな。少しは刺激がないと、ルヴァみてーになっちまう」
「だからって、何も一番危険なところへ行かなくても。すぐ見つかっちゃうよ」
「大体どうやって行くんだよ? いまは国交断絶状態なんだぞ」
マルセルとランディの至極当たり前の疑問に、ゼフェルは得意げに鼻をこすった。
「おめーらよく考えてみろよ。聖地の1日ってのは、外界では1ヶ月近くあるんだぜ? オレなんか部屋にこもって作業に没頭しちまったら、まるまる3日は誰とも会わねー。それでも誰も不自然だと思わねーだろ? そこが狙い目なんだよ」
「狙い目って?」
「作業部屋の入り口に『ただいま作業中。邪魔するな!』って張り紙貼って、コックに2~3日篭って作業するから日持ちのする簡易食を調達してくれって頼んできたんだよ」
そう言うとゼフェルは、背負っていたナップザックを降ろして二人の前で自慢げに開けて見せる。
「スティックタイプの携帯食に、栄養剤。干し肉に固形チーズと酵母パン。完璧だろ? とりあえず行きの食料さえ手に入ればよかったからな」
「おまえ、そういう知恵は天才的だな」
「で、でもさ。どうやってマルドゥークに行くの? 宇宙船だってないし、入国できないんでしょ?」
マルセルは丸め込まれそうになるランディを見て、慌てて口を開いた。
「昼間ヴィクトールが言ってたろ、急な招集が来たって。あれは多分マルドゥークに王立派遣軍の進軍が決まったって事だ。試しにカマかけたら、ビンゴだったぜ。ってことは、あのおっさんにくっついて行けば、うまくすると宇宙船に忍び込めるかもしれねーだろ?」
「そんなにうまくいくかなぁ」
「駄目もとさ。うまくいきゃあラッキーだし、見つかったって少なくともそこまでのスリルは味わえるかんな」
『スリル』
この言葉を聞いた途端、ランディの目はきらきらと輝きだした。
「スリルと冒険! いい響きだなぁ。確かに聖地は平和だし、それはすごくいい事なんだけど、何かこう……面白みに欠けるというか」
「ランディ!?」
「おっ、珍しく意見が合うじゃねーか、ランディ野郎。そうだろ、刺激が足りねーよな?」
ゼフェルは我が意を得たり、とにこにこしながらランディの肩をたたいた。
こうなったら仕方がない。二人を仲間に引き込み、計画が外部に漏れないようにするしかなかった。
『……うっとーしいけど、バレるよりはいいか。うまくいったら途中ではぐれたふりして別行動、って手もあるしな』
「二人とも、そんな事で意気投合しないでよ!」
マルセルは必死で訴えたが、冒険モードに入りつつあるランディと、それをあおるゼフェルの耳には届かないらしい。
「やっぱり男なら、危険を顧みず窮地に立たされた人々を救わなくちゃいけないと思うぜ?」
「そうだよな。それは守護聖としても言えることだよな。分かってきたじゃないか、ゼフェル」
「まあな」
「二人とも~!!」
結局、ゼフェルの諌言にまんまと乗せられたランディは、宇宙の平和を救う為(?)マルドゥーク行きを決意し、そんな二人だけで行かせるわけにはいかないから、とマルセルもしぶしぶ後から付いてきた。
『――鉱石マタル。そんなすげーもんならぜひ拝んで見てーもんな。ルヴァの故郷ってのも何となく面白そうだしよ。退屈しのぎにピッタリじゃねーか!! ふっ、待ってろよ。マタル! 必ず手に入れてみせるぜっ!』
自分の前に待ち受けるであろう災難などこの時思いつくはずもなく、ゼフェルはネオンの明かりが輝き始めた街へと走りながらニヤリと笑った。