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「……聞いた?」
「ああ。……でも、どうして俺達には知らせがなかったのかな? 俺達だって守護聖なのに」
ランディは、音を立てないようにそっと謁見の間の扉の前から四つんばいのまま後ろに下がり、ゼフェルの顔にお尻をぶつけてしまった。
「わっ! な、なんでそんなとこにいるんだよ!」
「ってめー! どうしておめーは注意力がねーんだよ!」
右手で鼻を押さえ左の拳を振り上るゼフェルのその手に、メルは慌ててしがみついた。
「だめーっ! 騒いだら見つかっちゃうよ~!」
「メル、大声出しちゃ駄目だよ。……とりあえずあっちに行こう!」
マルセルは立ち上がるとランディの腕を無理やり引っ張り、柱の影に回り込んでホッと胸を撫で下ろす。
「もーっ。ランディ、気をつけてよ。
ぼくたちがあんなところで立ち聞きしてるなんて、ジュリアス様にばれたら大変だよ?」
「ごめん、マルセル。俺、つい興奮して」
「謝るんならぼくじゃなくてゼフェルにでしょ?」
「そうだよな。ごめん、ゼフェル」
「……もういい。おめーが注意力散漫な奴だって事、忘れてたオレも悪かった」
「なんか引っ掛かるいい方だなぁ」
ランディの片方の眉がぴくりと上がるのを見て、マルセルは慌てて話題を変える。
「ね、それよりも。さっきランディが言ってた事なんだけど」
「なぁに?」
「ぼくらがどうしてあの報告の場に呼ばれなかったのかって事。どう思う、ゼフェル?」
マルセルは、腕を組むゼフェルに問いかけた。ゼフェルは組んだ右手を外すと、親指で自分の顎を軽く撫でる。
「オレらには聞かせたくなかったのか、聞かせてもしょうがないと思ったのか、どっちかだな。下手に騒ぎが大きくなって、聖地の一般人やあいつらに漏れたらめんどーだかんな」
「あいつらって……アンジェリークとレイチェルの事?」
メルはくるくると大きな瞳を回してゼフェルを見上げる。
「……そうだね。せっかく二人とも試験が終わってほっとしているところなのに」
マルセルは俯いてポツリと呟いた。
「どうなさったんです? こんな所に集まって」
突然ポンと肩を叩かれ、ランディは思わず飛び上がった。
「うわーっ! ヴィ、ヴィクトールさん!」
ランディのその大声に驚いて、ヴィクトールはパッと手を放して2~3歩後に下がった。
「驚かせてしまいましたか。申し訳ない」
「い、いいえ。ちょっと考え事をしていたもので……」
「考え事ですか?」
「ええ。ちょっとクーデターについて……」
「クーデター?」
穏やかでないその言葉に、ヴィクトールの顔が一瞬引き締まる。しまった、と慌てて自分の口を押さえたランディは、3人の仲間に同時に小突かれた。
『もう、ランディったらっ!』
『なんで喋っちゃうのっ!』
『馬鹿か、てめーはっ!』
「な、なんでもないです! 気にしないで下さい、ヴィクトールさんっ!」
「はぁ。……しかし穏やかではないですね、クーデターとは」
まだ不審そうに四人を見つめるヴィクトールに向かって、ゼフェルはランディの頭を後ろから軽く殴ると引きつった笑いを浮かべた。
「こ、こいつの頭ん中の話だって。いっつも脳みそがクーデターばりに大騒ぎしてるって言ってたんだよ。な。マルセル?」
「う、うん」
取ってつけたように笑う三人の少年守護聖の怪しい言動に、ヴィクトールはなおも軽く首を傾げる。それ以上何か言わせまいとして、メルはヴィクトールの上着の裾を軽く引っ張った。
「ねぇ、ヴィクトールさんはどうしてここに来たの? 何かご用があるの?」
メルの問いかけに、ヴィクトールの目が優しい光を取り戻したのを見て、三人は胸を撫で下ろす。こういう場合、無邪気なメルの存在はとてもありがたかった。
「ああ、忘れるところだった。実はお暇乞いに伺ったんだ」