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「なんですって?」
ルヴァは驚きで声が裏返る。
オリヴィエやリュミエールは、何故彼がそんなに驚くのかが分からず顔を見合わせた。
「ルヴァ様、それはどういう事ですか?」
「なんでそんなに驚くのさ?ねぇ、エルンスト?」
「マタル鉱石というのはですね、ここ最近、飛躍的にその資源としての需要を延ばしているんですよ。石油や原子力といった従来の燃料と違い、環境に及ぼす影響もなく、なにより僅かな結晶から爆発的なエネルギーを得ることが出来るんです」
ルヴァが一同に説明する後ろで、エルンストは手の平をすっと開いた。彼の手の上には虹色の光を放ち、中心部が乳白色をした小さな石があった。
オリヴィエは彼の側に近寄るとその石を覗き込む。
「不思議な色に輝くんだね。これがその“マタル”ってやつ?」
「正確にはマタルの結晶です。この結晶の純度は50%と大変低いのですが、今の我々の科学力ではこれでも最高級品です。これを高速で回転させると、膨大なエネルギーが発生します。ここ王立研究院の動力源も現在80%はこのマタルに依存しています。この手の平に乗るような小さな結晶でも、エアーバイク程度なら数時間飛ばせるほどのエネルギーを得ることが可能なのです」
「へーっ、こんな小さいのにねぇ。私の指輪の石と同じくらいじゃない」
オリヴィエはひょいとそれを指で摘みあげると、光に翳して片目を瞑り中を覗く。そうしてその光をしばらく楽しむと、くるりと振り返りエルンストに艶やかに微笑みかけた。
「ねぇ、これ私にくれない?」
「……先程貴重な物だと申し上げたはずですが」
「聞いてみただけだよ、アンタ相変わらずかたいねぇ」
オリヴィエは、ぽんとマタルの結晶をエルンストの手に戻すと髪をふわりとかき上げた。目をしばたたせているエルンストに、ルヴァははっと思いだして声をかける。
「待って下さい、エルンスト。マタルの貿易が中止されたという事は、まさか聖地にも届かなくなるということですか?」
「その通りだ。当然王立研究院の業務にも著しく支障をきたすことになる。それがどういう事かそなたなら分かるだろう?」
今まで苦虫をかみつぶしたような顔をして、話の脱線を黙って聞いていたジュリアスは、耐えきれなくなってルヴァにきつい口調で話しかけた。
「……新宇宙の観測の続行が困難になるという事ですか?」
「それでなくともいつ安定するか予測がつかないところへ、さらに観測不可能ということになれば」
「下手をすれば、せっかく生まれた新宇宙の崩壊にも繋がりかねない、という事か……」
クラヴィスは目を伏せてそっと呟いた。
「それで、陛下は? どう対処されたのですか?」
ルヴァは懇願するようにジュリアスを見返した。
「本来、女王陛下は各惑星の内政には干渉しない。各惑星の統治者に一切の権限を与えているのだが、今回はそうも言っていられない。早速、惑星マルドゥークに連絡をとったのだが――」
「交信不通との事でした。しかし事は急を要します。そこで陛下は、今回に限り王立派遣軍から何人かを王都ティアマトに隠密裏に潜入させました。そこで彼らが仕入れた情報は、驚愕に値するものだったのです」
ここでエルンストは軽く息を吸い込み、自分自身を落ち着かせるようにゆっくりと続けた。
「国王ケレトハシース=アッシャムラーアが病死したというのは偽り。彼は宰相クマルヴィの長子フェルカドによって暗殺されたというのです。皇太子アドアディールは視察の途中だった事もあり、行方不明。王宮はフェルカドによって完全に制圧された、との報告が入りました」
「そ、それはつまり……」
ルヴァだけでなくその場にいた者すべてが息を飲んだ。
そして絶妙なタイミングでエルンストは最後の言葉を告げる。
「ティアマトは反乱者の手に落ちた。つまり惑星マルドゥークでクーデターが起きたというのが、情報から導き出した結論なのです」