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「……懐かしいですねぇ。その名前を聞いたのは何年ぶりですかねぇ」
ルヴァは細い目をさらに細めて、懐かしそうに遠くに視線を投げる。
そのまま何か考え込むように黙り込んだ為、ロザリアは慌てて彼を現実に引き戻そうと声をかけた。
「懐かしむのは後にして下さる? 今は報告を聞いていただきたいのだけれど」
「ああ、そうですね。せっかく私の故郷の様子を教えて下さるんですから。すみませんね、エルンスト。先を続けて下さい」
「はい。……ですがあまりいい報告ではないのです」
エルンストは眼鏡を片手で軽く持ち上げると、手元の書類に目を落とす。
「惑星マルドゥーク。陸地の三分の二が砂に覆われた文字通り砂の惑星です。人口は約三千万人。これは惑星の規模からいえば余りにも少ない人数ですが、生物が生息できる範囲から考えれば妥当な数字です」
「ええ、あの星の環境は過酷ですから……」
「首都はティアマト。ここに惑星の総人口の大半が生活しています。後は“砂漠の民”と呼ばれる人々が各オアシスに部落のような街をつくって生活しているようです。世襲王政制度をとっており、国王はすなわち国家元首でもあります。――ここまでは、ルヴァ様がいらっしゃった頃とあまり変わってはいない、と思われますが」
「ええ。あの頃の国王陛下は大層研究熱心な方でね。私達のように砂漠を巡る者のお話をとても熱心に聞いて下さるんですよ。確か、私が始めて王都に行ったのは五歳の時でしたか。もう何もかもが珍しくてねぇ。あちらの店やこちらの路地、と走り回って父に怒られたものです。陛下の前では絶対に騒いではいけないと厳しくたしなめられて。ふふっ、大層怖い方なのだとびくびくして御前にあがったのを憶えていますよ。でも陛下は、そんな私の頭を撫でてくれてね。誉めて下さったんですよ。この子は利発そうな目をしているってね、そしたら父が……」
いつになったら終わるのだろうとその場の全員がしびれを切らし始めた頃、ジュリアスは軽く咳払いをするとルヴァに重々しく話しかける。
「……ルヴァ。そなたの思い出話は、後ほどゆっくりと聞かせてもらう事にしたいのだが」
「え。あ、ああ。す、すみませんね、ジュリアス。つい長々としゃべってしまいましたね」
「エルンスト、続けてくれ」
「はい。数年前、この砂漠に覆われたマルドゥークに貴重な資源が埋もれているのが、調査隊によって発見報告されました」
「鉱石“マタル”ですね?」
ルヴァの問いかけにエルンストは軽くうなずく。
「結晶化させる事で強大な電磁エネルギーを引きだせるこの鉱石が発見されて後、この砂の惑星の歴史は一変しました。今ではこの貴重な資源を利用し、宇宙でも1、2を争う貿易惑星へと変わろうとしています。ただ、発見されて年数が経ったにもかかわらず、マタルの純粋な結晶化は、未だ成功してはおりません。これが成功すればマルドゥークの、いえ王家であるアッシャムラーア家の得る利益は倍以上にも跳ね上がるでしょう」
「――どんな手段を使ってでも手に入れたくなるほどに、か」
ジュリアスは伏せていた目をエルンストへと向ける。その視線を受けて、エルンストはゆっくりとうなずいた。
「おそらくは」
「ち、ちょっと待って下さい、二人とも。いったいどういう事なんですか?」
ルヴァは慌てて二人を見比べた。その場にいたオリヴィエは、ついにじれたように声をあげた。
「あのさぁ、もったいつけてないで早く言ってよ。何のために私達を呼んだんだい? ルヴァの昔話を聞くためじゃないよね?」
オリヴィエが軽くため息をつくのを見て、エルンストは再び眼鏡を軽く押し上げ咳払いをする。
「その通りです、オリヴィエ様」
エルンストはメガネをキラリと光らせ、呼吸をするように淡々と本題に入った。
「実はここ数ヶ月、現国王ケレトハシース=アッシャムラーアは病の床にあったのです。それがつい先日急逝したとの発表が、王都ティアマトより発せられました。それと同時にマタル鉱石の貿易は、総て当面中止すると重ねて声明が出されたのです」