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「あ、マルセル様~! ランディ様とゼフェル様も、どこ行くの~?」
メルはぱたぱたと赤いおさげを振りながら三人に走り寄り、ランディの腕に掴まると深呼吸をしてから、その顔を上げてにっこりと笑う。
「メルは? お仕事なの?」
マルセルがバスケットをメルにぶつからないように持ち替えながら訊ねる。
バスケットが微かに揺れて辺りに甘い香りが漂うのをメルは見逃さなかった。
「うん、でも今は休憩中なの。…ねぇ、マルセル様、それってクッキー?」
「うん。ぼくが作ったんだ。アンジェ達とお茶会するからお茶うけにね。
あ、もしよかったらメルも来ない? ルヴァ様のお部屋に今から行くんだけど」
「わーい、行ってもいいの?」
「仕事がないんなら大歓迎だよ、メル」
ランディは自分に掴まるメルの手を軽く叩きながらにっこりと答える。
そうして自分の後ろでひと言も発せず立ち尽くす鋼の守護聖を振り返り、不審そうに訊ねた。
「どうしたんだよ、ゼフェル? さっきから黙りこくってお前らしくないぞ」
「何でオレが花束持ってかなきゃなんねーんだよ」
「だってゼフェルが作ってくれたんじゃない、それ。やっぱり作った人が渡すべきだよ」
マルセルは、当たり前のように答える。そうして花束に埋もれたゼフェルの顔を覗き込んで顔をしかめた。
「……なんでそんな嫌そうな顔してるのさ」
「ああ、照れてるのか。ハハ、お前らしいな」
ランディが手をぽんと叩き快活に笑うのと、ゼフェルが花束を振り上げランディの頭を殴ろうと身構えるのがほぼ同時だった。
「駄目だってば、ゼフェル!」
「お花が散っちゃうよー!」
マルセルとメルが慌ててゼフェルに抱きついた。
二人に抱きつかれ、華奢なゼフェルは後ろに倒れ込んだ。と、マルセルの腕にかけられたバスケットの蓋がずれて、何種類かのクッキーがゼフェルの顔にざざーっとなだれ落ちた。
「わーっ! ぼくのクッキーっ! もーっ、食べないでよ、ゼフェルっ!」
マルセルは身体を起こすと、バスケットの中身を慌てて点検する。そして数がそれ程減っていないことを確認するとホッと胸を撫で下ろした。
「いたーい……」
メルはおでこを押さえながら右手を地面に着いて上体を起こし、ゼフェルの手から花束を取り上げると、小さな花をそっと愛おしげに撫でた。そして立ち上がるとランディの元へ駈けより、にこりと笑う。
「お花、無事だったよ。ランディ様」
「ホントだ、メルが守ってくれたおかげだね」
ゼフェルは横たわったまま甘い匂いのする物体を顔からゆっくりと退かすと、わなわなと震えながら上体を起した。
「……おめーらなぁ」
「ゼフェルが悪いんだよ、花束振り回そうとするから」
「そうだよ、ゼフェル様。お花は大切にしなくちゃいけないんだよ」
「うん、ゼフェルが悪い」
「誰のせいだと思ってやがるんだ。この、のー天気野郎!」
「なんだと! 俺が悪いとでもいうのか!?」
「もーどうしてすぐ喧嘩するの? 二人とも!」
マルセルとメルが二人の間に割って入る。
いつも繰り返される、聖地での風景。少年達の日常だった。
しかしこの時、鋼の守護聖ゼフェルは心に誓う。
『ぜってー逃げ出してやる、こんなとこ! オレは冒険するんだ! こんなとこで若年寄になってたまるかっ!』
程なくこの願いがかなえられるなど、この時は夢にも思っていないゼフェルだった。